『ディーパンの闘い』でカンヌ映画祭の最高賞を獲得したフランス人監督ジャック・オディアール。ヨーロッパで頂点を極めた名匠の次なる一手は、アメリカ人俳優を使った英語の西部劇。もしや無駄にアメリカナイズされた作品になるのではと心配したが、全くの杞憂だった。ダイナミックで骨太、だが親密な魅力も放つオディアール節は健在。タイトルから一瞬、姉妹?兄弟?と戸惑うが、“シスターズ”という苗字を持つ男兄弟の話。原作はカナダ人作家パトリック・デウィットによる同名小説だ。
ゴールドラッシュに沸く19世紀後半。雇われの殺し屋兄弟、エリ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)は、裏切り者の化学者を追い、西へと向かう。だが、その対立すべき相手と、気がつけば行動を共にする。ここでは倒すべき絶対的な悪の影が消えてゆく。馬にまたがり荒野を移動はするが、どうも普通の西部劇とは毛色が違う。予想の斜め上を行く展開が続き、ラストまで目が離せない。
外国人がアメリカの映画を撮ると、個性を発揮できず大味になりがち。だが今回は、オディアールの才能に惚れ込んだ主演のライリーとプロデューサーである彼の妻が、原作を携えオディアールを口説き、立ちあげた企画。監督は自己流を思う存分貫けた。
さて物語の核だが、むしろ兄弟関係にありそう。暴君的な弟と燃え尽きた感のある兄。喧嘩もするが仲は悪くなく、呪われた血で繋がる微妙な関係だ。オディアールは本作を、監督志望だったが26歳で事故死した実兄フランソワに捧げている。
先のベネチア映画祭で銀獅子賞を受賞し、トロント映画祭でも観客を魅了した。現在は凱旋上映のように、フランスで公開中。秋の新作の中でも群を抜く秀作、見ない手はない。(瑞)