Q:一つ質問させていただいていいですか?先ほどいただいた鴨の胸肉、とても美味しかったんですが、血が出ないためにはどうしたらいいんでしょう?あそこまで赤くすると家では血が出てしまうのです。
西畑:あれはちょっと工夫がありまして。
Q:低温調理ですか?
西畑:そうです。熱々では出せないですが、あの温度だから血が出ないんです。自分でも使えるようなガストロノミーの技術も少しは使いたいと思ってやっています。ガストロノミーが好みじゃなくてもビストロでも使える技は使いたいということです。
Q:やっぱり。中があそこまでジューシーなのに血生臭くないというか、鴨の味がしっかりとしているのでどうして?とプロの技を知りたくなりました。
西畑:基本は「寝かせ」です。日本で最後に勤めた渋谷にあるヴィロンというパンが美味しい店では、お客さんを待たせても「寝かせろ」という方針でした。肉の熟成、焼き加減にはこだわりがありました。注文を取ってから「20分かかります」というのは当たり前のことで、焼いた後にも少し放置して熱が、焼き色がきれいに回ってから出すということをしていました。優しく焼いて、優しく寝かせる。「寝かし」がポイントです。
Q:アドバイスをありがとうございます。ところでフランスに来て嬉しかったことはありますか、例えば素材がいいとか?
西畑:僕は基本的に肉が大好きですが、日本で食べられるのはアメリカ産か和牛か、ということになるじゃないですか。
Q:オーストラリア産もね。
西畑:オーストラリア産は硬くてちょっと無理だなということもあり、アメリカ産が僕的にはちょうど良かったんですが、何かの病気のせいで僕がいた頃はあまり食べることができなくて、だったら和牛を食べるかというと脂っこくて食べられない。だからフランスに来てこんなにうまい赤身の肉があるのか、と驚きました。これを食べ続けられるならばフランスにずっといてもいいかな、というほどの旨さです(笑)。
Q:確かにこちらの赤身は美味しいですよね。
西畑:食べるためにこっちに住んでいるというほどです。食べることがとにかく好きなので。こちらの鴨も美味いですよね。
Q:確かに日本にあの鴨はない。鴨南蛮っていっても火が通り過ぎていて。
西畑:硬くて歯が立たない。フランス産の鴨はやっぱり美味いです。
Q:でも反対に、日本の方が美味しいものというのもありますよね?お魚とか。
西畑:もちろん日本の魚は美味いですよね。だから魚とか、焼肉とかを食べに日本へ帰ります。でもこちらにはラーメン屋もあるので日本に帰って食べたいと思うのはお寿司ぐらいですかね。
Q:大阪出身だとお好み焼き?
西畑:家でもたまに作ります。もちろんたこ焼き器も家にあります。
Q:明石の蛸はないでしょうけれど、羨ましい。お店の仕入れはどこで?
西畑:魚は魚屋から、まあまあかな。肉は数軒から、この肉はここから、というような区別をして選んでいますし、悪い時にはすぐに仕入れ先を変えます。
Q:今の流行りはレストランでも産地と作り手を明記することですよね「どの土地の誰さんのお肉」という感じ。
西畑:全然気にしないですね。ただアンガス牛を置いているので、それだけはメニューに明記します。
Q:このお店、すごい人気、お昼から満席だったし。いつもこんな感じですか?
西畑:いつもこんな感じです。メトロがすぐ近くだからかなと思っています。
Q:でも常連さんらしき人も多くて、地元に愛されているお店だと感じました。
西畑:確かに、地元の若い人からお爺ちゃんお婆ちゃんまで色々な人が来ます。
Q:さっき孫娘を連れて来ていたおじいさんはアメックスのブラックカードを出していて、おー16区!と思いました(笑)。
西畑:本当に16区です。この界隈のこだわりがあるし、気品のあるお客さんもいて、食通というか 外で食べ慣れている人も来るんですね。すると「この食べ方は違う」と指摘されてりして「えー!」というようなことも。まさに16区という感じです。
Q:クラシックというか、色々な意味で伝統を大切にしている。それからお昼なのになぜこんなにみなさん優雅に食事をしているのだろう、とも思いました。ビジネス街とは全く違った雰囲気、お昼からみんなワインを飲んでいるし。
西畑:確かにそうですね。焦ってないですよね、ゆとりがあるというか。
N°41
Adresse : 41 av. Mozart, 75016 ParisTEL : 01.4503.6516
アクセス : M° Ranelagh
URL : www.n41.fr
定休日なし(夏は8月6日夜〜21日まで休み、年末年始休業) 8hからノンストップで22h30まで営業。