「正統フランス語の守護者」と称されるアカデミー・フランセーズは、2月28日、従来男性形のみが正統とされてきた職業・役職名に女性形の使用を認める案件を圧倒的多数(反対2票のみ)で採択した。1635年に宰相リシュリューが創設して以来、こと言語に関しては伝統重視の保守主義を通してきたアカデミーにとっては最初の画期的大改革と各紙が報じた。3月8日の「国際女性の日」に先立ち、男女平等へ一歩前進と報道は好意的だ。
男性教授がun professeurなら、今後は女性教授をune professeureとしても正解になる。既にフェミニスト著述家たちはアカデミーなど無視して女性形を使用してきているので、それを見慣れた人々は拍子抜けして「名詞が男中心の絶対主義から中世の自由な表現を取り戻しただけ」で、更なる改革(男女名詞が混在する複数にかかる形容詞は男性複数形を使う現規則は女性差別であり、撤廃すべし)を要求している。とはいえ、1906年にキュリー夫人がソルボンヌ大学初の女性教授に任命されて以来100年以上も女性教授を男性形でprofesseurと呼んできた歴史を振り返ると感慨は深い。
また、従来の職業・役職名はほぼ全て男性名詞のため、すべての使用例の検証は不可能として個々の名詞は一切挙げず〈使用者の良識が自然に慣用を形成するに任せる〉と余裕を見せているのも奥ゆかしい。アカデミーのような大権威でさえ一方的な押し付けはせず、使用者参加型の決定プロセスを認めるに至ったのは、男女を問わずフランス語使用者全員の権利拡大と言える。
しかし「良識」という、あいまいな基準も厄介だ。ル・モンド紙は難しい例としてchef(首長)を挙げている。chèfe、cheffesse、 cheftaine、 chèveなどが女性形として考えられるが、使用頻度の高さから、最良の案ではないが、cheffeに定着するだろうとアカデミーが見解を示したことを伝えている。より単純な例でもauteur(著者)の女性形はauteureなのか、autriceなのか?また「フランス語書取り世界選手権」の司会者を長く務めたベルナール・ピヴォ氏は「素晴らしい改革だが混乱を招く例も少なくない」と「tribun(雄弁家)の女性形は tribune(演台)、gourmet(美食家)の女性形は gourmette(腕輪)と混同される」などの実例を挙げている。当分、論壇、カフェ、茶の間で激しい論議が繰り広げられるだろう。
3月8日は、未だに絶えない日常の女性差別や暴力の根絶を訴える恒例の集会、翌9日も女性ジレ・ジョーヌのデモがあった。女性たちの道はまだ長い。(森)
アカデミーフ・ランセーズの報告書(全22頁)- LA FÉMINISATION DES NOMS DE MÉTIERS ET DE FONCTIONS
国民議会で女性議長に対して”Madame le président”と呼びかけ、議長から”Madame la présidente”と呼びなさい、と諭されるUMP党(当時)議員の発言ビデオ。後に処罰を受けた。www.lemonde.fr/politique/video/2014/10/08/un-depute-sanctionne-pour-un-madame-le-president_4502359_823448.html