6月6~9日、720人の議員を選出する欧州議会議員選挙が行われる。フランスでは9日(一部は8日)が投票日となっている。国内選挙とは違って争点がわかりにくい選挙だが、国際情勢の不安定化で国際社会における欧州連合(EU)の役割が高まるなか、選挙の行方に注目したい。
議席数は加盟27ヵ国それぞれの人口に応じて割り当てられており、最多のドイツは96議席、続くフランスは81議席を有する。フランスでは政党や政治グループのリストに投票する比例代表制で、5%未満の得票率のリストは失格となり、5%以上のリストが得票率に応じて議席を得るシステム。9日に投開票される(一部海外領土では8日)。
欧州議会選挙は国内の選挙に比べて関心が低く、前回2019年の投票率は50.01%。しかし、今回はウクライナ戦争をきっかけに浮上した対ロシアの集団防衛、食料安全保障に関連する農業問題、気候問題、個人情報の保護など進展するデジタル社会への対応、人工知能 (AI)規制、対中貿易、自由貿易推進の是非など、国際舞台におけるEUの姿勢が将来のEU市民の生活に直結する部分もある。加盟国の足並みはなかなかそろわないが、米、露、中などの大国や南米、アフリカなど他地域に対して重みを持つにはEUの結束力が必要になる。
フランスについては、37の候補リストの届け出があった。服従しないフランス党( LFI)、社会党 ( PS)とヨーロッパ・エコロジー=緑の党 (EELV)の連合 (Nupes)による共闘は実現せず、別々のリストになった。選挙戦の議論は今後のEUのあり方というよりも、多分に2027年の大統領選を意識したものになっているようだ。LFIは貧困対策、ガザ支援、EELVは気候問題と環境保護対策、PSはウクライナへの武器支援、与党連合はEUの主権防衛、共和党(LR)はEU規則への反対と反移民、国民連合(RN)は移民取り締まりの必要性を全面に押し出す。世論調査ではRNの得票率が30%、与党連合16.5%、PS14%、共和党8%、LFI7.5%、EELV5.5%と、前回2019年に続いて極右が有力だ。
調査会社IPSOSが4月下旬にフランスで行なった世論調査によると、EUが取り組むべき優先課題は移民問題が42%とトップで、気候変動36%、農業の将来35%、再工業化30%、共通防衛力構築28%と続く。また、EUの決定した政策は仏にとって有利は23%に過ぎず、不利が54%と大きく上回り、EUのとる政策や規制を足枷あるいは全く不十分とみなす不満が大きいようだ。
現在は欧州人民党(PPE/保守系)、社会民主進歩同盟(社会党系)、欧州刷新(中道)が主な勢力だが、各国で極右の台頭が見られ、極右会派がPPEの議席に迫る可能性も指摘されている。そうなるとまずは、移民をアフリカに押しとどめようとする現在のEU政策がさらに進展していくのだろうか。共通の環境保護政策よりも各国の利益が優先されるようになるのか?そうなると、EUの本来の目的が薄れていくのではないだろうか。(し)
欧州議会の会派は7つ
会派を形成するには加盟国の4分の1(7ヵ国)以上の国から25人以上の議員を集めることが必要。
現在、欧州人民党グループ(EPP / 中道右派)176議席、社会民主進歩同盟(S&D / 社会党系)139、 欧州刷新(Renew / 仏与党連合)102、 欧州緑グループ(Greens-EFA)72、 アイデンティティと民主主義(ID / 極右)58、 欧州保守改革グループ(ECR / 保守・欧州懐疑派)68、 欧州統一左派(GUE / NGL / 仏共産党、LFI)37、 無所属52。フランスの現議席数は再生党23、RN23、EELV13、共和党8、LFI6、社会党6。
選挙後は?:7月16~19日に新たな欧州議会で議長を互選。次に、複数の加盟国の政府が議会の勢力を考慮しつつEU委員長を推薦する。加盟国首脳の過半数の賛成と議会での承認が必要。9月にEU理事会がEU委員を任命。
フランスの主要候補リストの公約
LFI
大手食品企業・小売業のマージン縮小により食品等値下げで貧困撲滅。ガザ住民を虐殺するイスラエル政府への武器禁輸措置や制裁措置。
EELV
貧困撲滅、 環境保護をEUの指針とする。自由貿易盲従に反対。汚染のない工業化。
PS
持続可能な工業化。エコロジー移行のために富裕層に課税。 欧州の防衛の強化。ウクライナへの武器供与。
与党連合
主権、国力、EUモデルの保護。エネルギーや軍事産業でEUの主権の確保と欧州の価値観を守ることが最重要。
LR
反移民。EU規則に反対。各国が自国の不法移民の取り締まりを強化。とくに農業を守るためにEU規則を大幅に緩和する。
RN
保護主義、反移民、バルカン半島やトルコ、ウクライナへのEU拡大に反対。 EUへの貢献金や税金が多すぎるので、それを国民に返すべき。