Q:ただ、お店を持っての最初はどうでしたか?料理は何を作ればいいの?という状態だった?
松根:フランスに遊びに来た時も、彼(レイモンさん)のお姉さんがカフェをやっていたので、そこの手伝いなどをしながら、です。「いつでも手伝いに来ていいよ」と言われたので。
Q:お姉さんはパリでカフェを?
松根:オペラ座近くにカフェを持っていました。手伝いに行ったらとても面白かったんです。普通のオーヴェルニュ人が経営するカフェだったんですけれど、日替わりのお昼のセットメニューを出していた。高級なフランス料理しか見てこなかった私にとっては、もちろん日本ではパザパのようなカジュアルなお店で料理を体験したとしても、とても新鮮でした。
Q:じゃあお姉さまのお店では、日替わりでオーヴェルニュの料理も出していた?
松根:そういうものもありましたけれど、そればかりじゃなくて他の料理も、カスレなどの他の地方の煮込みもありました。あの時代はそういう地方料理を全然知らなかったので、まあ研修中はリヨンの近くだったので内臓系の料理を知っていたとしても、実際に「わー、こういう風に手軽に出せる料理があるんだ」ということで料理が身近になりました。最初の頃にSandwich crudité(お野菜のサンドイッチ)を作って、と言われた時に何それ?と思って質問をしたら「野菜だよ」と言われた。つまりCrudité生野菜、という言葉すら知らなかったんですよ、私。そこからカフェの料理を教わりました。私は料理学校育ちなので、何しろ分量というものが大切でしたけれど、お姉さんの料理というのは「目分量」というか「いつもの量」というのが 多かったです、それにびっくりしました。デザート、クレームブリュレとかムースドショコラでは顕著でしたね。いちいち計らなくてもきちんとしたものができてしまう、というのは本当に驚きでした。
Q:ただその目分量というのは、長年の経験からくるものなので私たちには真似できない。
松根:そうなんです。作り方にしても、いろいろな手順がひっくり返っていたりするのですが、とても美味しいものができてしまうんです。それが色々学校で習って来た自分にはショックでした。ただお店じゃなくて、お祭りか何かの機会でお姉さんの家に行くと、デザート、タルトを作るのに、ちゃんと秤を使っているんです!いやあ、びっくりしましたね(笑)。ただ目分量で作るデザートもとても美味しいんです。そのことに私はびっくりしましたね。
Q:となると、今お店では秤なしでなんでも(笑)?
松根:いやそうではないです。15区のお店時代にはあまりキチキチとはやっていませんでした。けれども産休に入ります、というようなけじめの時期には自分なりにレシピを書き残したりしました。ただし私が今作っているデザートの中にはお姉さんのレシピを引き継いでいるものもありますね。
Q:今、お姉さまのお店は?
松根:モンパルナス界隈に店を持っています。パワフルな人です。彼女の夫もオーヴェルニュ出身で、店をいろいろ買っては展開していますね。
Q:もともとレイモンさんのご家庭というのも飲食業だった?
松根:オーヴェルニュの田舎で酪農に従事していた。8人兄弟なので子供も働き手として数えられていたということみたいです。家父長制というんですかね、父親が仕切る家だったみたいです。で、18歳の誕生日、つまりこちらの成人の日に家を出る、というしきたりだった。
Q:あるんですね、そういうしきたりというのが。
松根:まあ兵役も経験していますけれど、もともと家の手伝いをしていたので18歳になってパリへ来てもカフェの仕事の方が「楽」と思えたのじゃないかと思います。彼の土台は強い、しっかりしています。
L’Auberge Café
Adresse : 4 rue Bertin Poirée, 75001 ParisTEL : 01.4329.0122
月夜と日休