Q:ちなみにお生まれは?
松根:静岡の三島です。伊豆の入り口なので、短大の時に派遣で配膳のアルバイトをしました。リゾートホテルなどの配膳をがっつりやっていたんです。その時は和食が主でしたが、たまたまフランス料理などを見ると不思議というか、とにかく見たことも食べたこともないものでしたので、憧れを抱いたのかもしれません。なので短大卒業後には、辻の東京校のフランス料理へ。調理師免許は取れない代わりにフランス校があり、春コースと秋コースがあって秋コースを選べばその間バイトができます、と説明されたので、私はまだ当時バブル終焉の波が押し寄せていなかった地元に戻って配膳のバイトを続けました。時給が1500円ぐらいだったんです。
Q:それは1990年代の?
松根:はじめです。頭の中で計算をしたら半年で200万円は稼げるなと思いました。
Q:本当にあの時代は、そうでしたね。
松根:まずがっつり稼いで、学校へ行こうと。辻の東京校に行っている時に先生だった方が独立して出したお店を時々手伝っていたら、リヨンでの研修中にまで「手伝って」と電話がかかってきて、日本に戻ってそのままお店に就職という運びになりました。奥さんが二人目の出産をされて人手が足りなくて大変な時だったんですね。結構な高級店ですが、シェフと私だけしかいなくて、お客さんが来ると私がサービスをする、という仕組みでした。
Q:どこにあったんですか?
松根:世田谷です。私みたいなど素人に毛が生えたような人間が、1食1万円するようなフランス料理の店で働くというのもね。2年と少し働きましたが、その期間の半分以上はお客さんが一人も来ない。2日に一度、一人でお昼を食べに来る常連のおじさまがいて、その方のおかげでその日の収入はゼロじゃない、という感じでしたね。とにかく波の多いお店で、シェフと二人きりでできることをやりつつ、入ったからには3年はいようと思ったんですけれど、さすがに2年で「辞めます」と。その頃2500円ぐらいでセットメニューを出すフランス料理店が流行り始めていて、そのスタイルを始めたと言われる四谷三丁目のパザパという店に食べに行ったら、うちの主人が働いていたんです(笑)。
Q:そこで出会った?
松根:そうなんです。私自身も外食をほとんどしない家に育ったこともあって、高級店にあまり親しみを持てなかった。フランス料理にも色々あるのならば次はもっとカジュアルな店で働きたかった。なので食べに行った時に「働かせてください」とお願いしました。主人とはそこで知り合って付き合い始めたんですが、ビザがなく観光として日本へ来ていたので3ヶ月いてはフランスに帰って、また戻って来るということをしていました。
Q:ご本人に聞かなきゃわからないかもしれないけれど、なぜ日本へいらしたんですか?
松根:単純に言えば、1980年バブルの時にパリに溢れていた日本人観光客が多く立ち寄っていたリヴォリ通りのカフェでギャルソンをしていた、ということです。もともとはオーヴェルニュ出身、彼の姉もパリでカフェを経営している、という家庭に生まれています。
Q:最近はオーヴェルニュの人のカフェがどんどん中国人に売られている、とパリジャンは嘆いていますよね。
松根:そうですね。タバコ屋もほとんどそうですよね。私も、15区の店でも13区の店でもはじめは中国人だと思われたんですけれど、実際店に入るとオーヴェルニュ人の主人がいるので「なんだここは!?」という反応をされました。「ここもまた中国人に買われたぞ」と言われながら「あれ、オーヴェルニュ?」という感じです(笑)。主人は日本に行ったことのあるフランス人の知り合いに 「東京へ行ってみたい」と話をしたら、何かあればこの店へ行けばいい、とパザパの名刺をもらい訪ねて行ったらしいです。
Q:旦那さんは日本語も少しできますよね?
松根:もう、ペラペラです。私と話す時には日本語です。
Q:そうですよね、この前電話で話をしたら始めはフランス語だったのに途中から日本語が出てきてびっくりしました。そうか、日本で知り合われて。
松根:それからずーっと日本語で話をしています。彼は日本に3ヶ月間2度滞在して、3度目に入国しようとしたら「所持金もそれほど持っていないのになぜ?」と成田でフランスに返されてしまうんです。パザパ、店の方も店舗の改装と拡張を同時に行ってレイモン(旦那さんの名前)に店長をやらせようと計画していたのに、肝心のレイモンが日本へ戻ってこれなくなって(笑)、そもそもビザを取っていなければならなかったという話なんですけれどもね。それで彼は結局帰ってこなくて、私の方が店を辞めて3ヶ月フランスへ遊びに来た時に子供ができてしまって、結婚しようということに。
L’Auberge Café
Adresse : 4 rue Bertin Poirée, 75001 ParisTEL : 01.4329.0122
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