昨年11月17日の第1回全国行動から始まった「黄色いベスト(gilets jaunes)」運動は、新年も鎮まる兆しはない。1月5日の第8行動は全国で5万人(内務省発表)を動員、「マクロン辞任」と共に、「市民のイニシアティヴによる国民投票(RIC)」という政治参加の要求が各地で掲げられた。
政府はクリスマス前、12月10日の演説で大統領が約束した措置のために、100億ユーロ追加した2019年予算を超スピードで両院で採決させた。しかし、最低賃金の大幅な引き上げや連帯富裕税の復活はないと判明し「黄色いベスト」は行動を続けた。クリスマス休暇中の第6・第7行動は人数は減ったものの、クリスマスイヴをロータリーで過ごす人たちもいた。語り合い行動する中で連帯感が生まれ、孤立していた老若男女が人間的な関係を取り戻し、友愛が育まれたようだ。
さて、大晦日の演説でマクロンは「憎悪に満ちた群衆」という表現を使い、政治方針を変える意思がないことを好戦的に述べた。「黄色いベスト」の要求への答えは、1月中旬から始まる各地の「大討論会」(詳細は不明)のみで、 大勢の国民(過半数が 「黄色いベスト」を支持)の抗議を無視する意向が明らかになった。折しも大統領の元側近アレクサンドル・ベナラについて異常な事実と疑惑(解雇後も外交官パスポート2通所持、大統領府と関係継続)が暴露され、マクロン政権の信頼性はさらに損なわれた。
論題を選べない政府主導の討論会に懐疑的な「黄色いベスト」は、すべてのテーマについて国民投票を提案できるRICを要求する。第五共和政憲法で国民投票の実施を決められるのは大統領だけだったが、2008年の憲法改正により、国会議員の5分の1以上と有権者の10分の1(460万人)以上の要請があれば可能になった。しかし、ハードルが高すぎてこれまで使われたことがない。そこで、70万人以上の署名によって、立法のみならず法律の撤回、憲法改正、大統領を含むすべての議員の罷免を国民投票で可能にする内容が提案されている。野党「服従しないフランス LFI」は、この内容のRICを憲法に加える法案を2月に国会に提出する。
第8行動の際、パリでグリヴォー政府スポークスマンの庁舎の門が壊され、サン・ジェルマン大通りでの攻防戦など暴力行為が増加したことから、1月7日、フィリップ首相は「壊し屋」と、届け出のないデモをより厳しく取り締まると発表。一方、アムネスティ・インターナショナルが12月14日に告発したように、治安部隊による過度の弾圧(第8行動までに負傷者1600人以上、逮捕者5300人以上)も指摘されている。政権と「黄色いベスト」の対立が和らぐ見込みは薄い。(飛)