「黄色いベスト」運動の1月26日の第11行動参加者は内務省発表で6.9万人。数は減少しながらも運動が続くなか、マクロン大統領が12月に打ち出した「全国大討論(Grand débat national)」や、それと並行して地方議員と議論する大統領の全国行脚も始まり、対話によって解決策を模索しようという動きが出てきた。暴力を排して民主主義を守ろうという「赤いスカーフ」デモが起きたり、一部の黄色いベストが5月の欧州議会選挙に出馬する意向を示したりと、新たな局面に移行しつつある。
「大討論」のために市民が自由に不満・要求を記載する「陳情ノート(Cahier de doléances)」も各地に設置され、遅まきながら政府が国民の不満の声に耳を傾ける姿勢も見えてきた。大統領が1月13日に国民に宛てた公開状で、税金・国家予算、国の組織と公共サービス、エコロジー移行、民主主義と市民性の4つのテーマについて大討論への参加を促し、ともに解決策を見つけることを呼びかけた。
翌14日に政府が明らかにした実施方法によると、希望する市町村、市民団体などが15日から討論会を開催、21日には国民がネットや手紙で要求などを寄せるプラットフォームができ、3月1日から地域圏単位での討論会で国民の要求をまとめるという流れになる。大討論の開催希望は22日時点で1664件、15〜22日の1週間で845件開催された。参加者は数十人から200人規模まで様々だが、一部の黄色いベストも参加。大統領の全国行脚も15日から始まり、地方税収減や地方インフラへの補助金減などの不満を大統領に直接訴える機会ができたこともあり概ね好評だ。
しかし、多国籍企業や富豪の税金逃れ、議員の待遇、購買力向上(最低賃金・年金引上げ)などの問題を政府が避けている感もある。政府主導の討論に懐疑的な黄色いベストは政府の「大討論」に対抗する「真の討論」の場をネット上に立ち上げた。大討論の運営立案を任されたシャンタル・ジュアノ市民討論委員会委員長が14,666ユーロの月額報酬を得ていることが問題となってこの大討論から手を引く事態になったが、こうした諸委員会トップ、高級官僚、国会議員手当など、庶民感覚とかけ離れた高額収入に、黄色いベストの不公平感や格差感は募る。政府はこれらの問題にも真摯に取り組むべきだろうし、経済投資効果の不確かな富裕税の復活も検討するべきだ。大討論は単に政治的ポーズなのか、成果が本当に政策に反映されるのか、その成否に事態収拾のカギがある。(し)