テヘラン、ヤルダ(冬至)の日の夜。罪人が被害者家族から赦しを乞うリアリティ番組の収録が始まる。登場するのは夫を事故で殺したかどで死刑判決を受けた22歳の妻。好奇の目に晒(さら)される彼女の運命とは。監督は本作で長編フィクション2作目となるマスード・バクシ。サンダンス映画祭審査員大賞(ワールドシネマ・ドラマティック部門)を受賞した、上映中の話題作について話を伺った。(聞き手:瑞)
リアリティ番組についてどう思われますか。
私がこの種の番組を知ったのはローマに映画留学中の2000年代。フェリーニも撮影した伝説のチネチッタを訪ねたのですが、すでにスタジオ全てがリアリティ番組の撮影に使われていてがっかりしました。本作はフィクションですが、リアリティ番組はイランに実在し人気もありました。「罪人への赦しを促す」という目的は良いのですが、視聴者の感情を煽(あお)り操るのが問題。世界のリアリティ番組に共通する不当で非人間的な構造があります。
前作「Une famille respectable」発表後に死の脅迫を受けたそうですが、今回撮影に不都合は。
前作は政治腐敗を描いたため批判を浴び、新作の制作開始まで4年待ちました。しかし許可が出れば撮影はできます。前作と異なりイランでも公開できて感無量。新しい試みもありました。映画の収益を死刑囚の解放運動のために使ったのです。NGOと協力し被害者家族の説得を試み、死刑囚二人の命を救いました。うち一人は少年時代に殺人を犯し15年牢屋で過ごした青年で、一ヵ月前に釈放されたばかり。
変わりゆくイランの空気にも触れられる作品です。
イランは古く豊かな歴史文化があると同時に35歳以下の人が5千万人いる若くダイナミックな国。女性も社会的な居場所を探し、徐々に大事な役割を担うように。それは本作を見てもわかると思います。わが国は目下「古さと新しさの共存とバランス」が課題。私は日本が好きで旅もしましたが、自分の世代にとって日本は良きモデルです。