農業大国フランスでは、農村が舞台の秀作が定期的に生まれる。仏東部ジュラ県の若者が登場する本作もそのひとつ。カンヌ映画祭「ある視点」部門やアングレーム仏語圏映画祭で受賞し、若手作家の独創的な作品に贈られるジャン・ヴィゴ賞にも輝く話題作だ。
主人公は無軌道な生活を送る18歳のトトーヌ。父が急逝すると生活は一変。7歳の妹を育てるため、賞金が出る農業コンテストにコンテチーズを出品しようと画策。まずは原料の牛乳が必要になるのだが……。
監督はジュラ県の農村で育った1994年生まれの仏人女性監督ルイーズ・クルヴォワジエ。リヨンとパリで映画を学び、カンヌのシネフォンダシオン(学生部門)では短編が受賞した注目株。その後故郷に戻り、家族の協力のもとに撮り上げたのが長編第1作となる本作だ。農場を営む家族は芸術家の顔も持ち、親兄弟が音楽や美術、舞台装置のスタッフとして参加した。
出演者は地元の素人を起用。みな雄大な自然の風景に溶け込んでいるのは当然だろう。牛の出産やチーズ作りのシーンは、ルポルタージュのような臨場感がある。
とはいえ、監督はドラマティックな物語の中で課題や困難、親密なシーンを設定し、各キャラクターの顔をしっかりと引き出す。若き日のブノワ・マジメルに似た主演のクレマン・ファヴォーは、意志的だが時にナイーヴな表情を見せる。絶妙な会話のやり取りも笑いを誘う。
「傷ついた若者が抜け出そうとする軌跡を、優しさとユーモアを交え伝えたかった」と語る監督。その試みは完全に成功している。タイトルの「Vingt Dieux(何だって!)」は、驚きを表す古めかしい感嘆詞。ジュラ地方では今もよく使われているとか。12月11日公開。(瑞)