170年はあなたと祝う! 170 ans Ça se fête avec vous !
アルザス地方のコルマールにあるウンターリンデン美術館*は、長い歴史を誇っている。フランス革命中に破壊を恐れて避難させていた美術品を、13世紀建造のドミニコ派修道院の礼拝堂に保管し、革命中閉鎖していた修道院を美術館として1853年4月に開館したのが始まりだ。(*ウンターリンデンはドイツ語で「菩提樹の下」の意味)
コルマール出身の画家・版画家マルティン・ショーンガウアー(1445頃 -91)の名前を冠した地元の非営利団体「ショーンガウアー協会」が運営する。フランスの主要な美術館の中で、公立ではないまれな美術館だ。
この170年間に、所蔵品を充実させ、美術館の発展に寄与した人たち11人を案内役にして、彼らにちなんだ作品を展示する「創立170周年記念展」が開かれている。来場者に所蔵品の多様性を知ってもらうことも目的の一つだ。
11人の等身大の肖像が異なる展示室に置かれており、肖像の横に一人一人の紹介文がある。小説家のキャロル・マルティネスが、アーティスト・レジデンスとして美術館滞在中に一人称で書き下ろした文章を短縮したものだ。調査をもとに彼女が書いた文章は一冊の本 「Onze voix sous les tilleuls菩提樹の下の11の声」になった。館内の売店で入手できる。マルティネスは 『Le Cœur cousu(縫った心 未邦訳)』で16の文学賞を受賞し、その後の作品も高い評価を受けている実力派だ。
回廊に沿った展示室では、11人の一人、彫刻家テオフィル・クレム(1849-1923)が紹介されている。アルザスを代表するネオゴシック彫刻家の一人で、ショーンガウアー協会の初代会長となった1908年以降、作品購入と修復に尽力した。彼が製作した、ナンシーのサンテーヴル教会の主祭壇の10分の1サイズの精巧な模型がクレムに関する所蔵品として展示されている。
11人中、女性は2人。その一人、マドレーヌ・ジェル(1897-1971)は、自分の専門分野と全く異なる考古学で美術館に貢献した人で、その人生が面白い。リセで37年間数学の教師をし、コルマール自然史協会の会員でもあった。リセ在職中の1950年代にウンターリンデン美術館に考古学展示室を作り、1960年代から死ぬまで、ボランティアで考古学部門のトップを務めた。エジプト、中近東、インド、中南米など世界を股にかけて旅した大旅行家で、それらの地で集めたものの一部がコルマール自然史博物館に収められている。彼女がコルマールで発見した、高貴な身分の人の墓から出土した鉄器時代の食器が、関連所蔵品だ。
画商とコレクターも美術館にとって重要な役割を果たした。ジャン=フランソワ・ジャジェール(1923-2021)はストラスブール生まれで、ストラスブールのアルザス美術館の創立者の一人を祖父に持つ。自身も医師になるつもりだったが、23歳の時に、パリの有名な画廊主で叔母のジャンヌ・ビュシェが亡くなり、彼女に子どもがいなかったことから跡を継いだ。叔母の画廊名の後にジャジェールを付け、ジャンヌ・ビュシェ・ジャジェール画廊とした。彼の死後も画廊は続いている。ジェジェールは、コルマール美術館が1960年代に近代・現代美術の収集を始めた時から協力し始めた。彼の画廊が扱う多くのアーティストの作品がこの美術館の常設展で展示されている。
叔母の時代から画廊の常連画家で、ジェジェールも支援を続けたヴィエイラ・ダ・シルヴァの作品「ジェラール・フィリップの芝居」には、風景が水の上に映ったような美しさがある。
ジェジェールを介して自身のコレクションを充実させたコレクター、ジャン=ポール・ペルソン(1927-2008)は一大寄贈家となった。ファッション誌「ヴォーグ」のアートディレクターで、ジェジェールの紹介で、ウンターリンデン美術館を運営するショーンガウアー協会の理事長に会った。それがきっかけで所蔵品を寄贈することになり、2008年には、1940-60年代のブラウナー、ド・スタールなど146点を寄贈。死後、彼のコレクションはウンターリンデンに収められた。ペルソンに関する作品は、寄贈した36点のジャン・デュビュッフェの中のフォト・リトグラフ「女性の体(2)」。体の中に大きく口を開けた顔があるように見える。
11人それぞれの物語を辿りながら作品を見ていくと、美術品から関わった人たちの温もりや感情が伝わるような気がする。美術館の見せ方として新鮮だった。
ウンターリンデンに来たからには、この美術館の最高傑作であるグリューネヴァルトの「イーゼンハイムの祭壇画」を見ずに帰ることはできないだろう。古代から現代までの充実した展示品は、何度足を運んでも見飽きることはない。昼食を挟んでゆっくり回りたい。(羽)3月4日まで
★パリからの行き方:
パリ東駅からTGVでストラスブールまで行き、30分おきに出るTERに乗り換え、コルマール下車(約2時間半)。駅から徒歩15分、またはバス1、3、4、5、7、8でThéâtre下車。
Musée Unterlinden
Adresse : 1, rue d'Unterlinden , 68000 Colmar , FranceTEL : 03 89 20 15 50
アクセス : 火休、月-日 9h-18h 入館17 :30まで
URL : https://www.musee-unterlinden.com
入館料のみ:13€。入館+オーディオガイド(日本語あり):16€。若者料金+オーディオガイド: 11€ 。(若者料金:8€、12歳〜7歳、30歳未満の学生) オーディオガイドは、仏、独、英、伊、西、韓、中、日あり。