フランスでもポンピドゥ・メッス館、ラ・セーヌ・ミュージカル(音楽堂)などの設計で知られる建築家、坂茂氏が、パリの体育館内にウクライナ難民のための避難所を整備した。
坂氏は、紙管で枠を組み、そこに布をかけて間仕切をつくる「紙管ユニットシステム」で、日本の被災地をはじめ世界各地で避難所を設営してきた。ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからは、ウクライナ国境近いポーランドの町でスーパーマーケット跡に避難所を設営。パリでは、10区と12区の体育館に設置された。
パリ10区の体育館は、多くの避難者が到着する東駅から歩いて3分ほどの距離。東駅構内には赤十字による避難者を受け入れる部屋があり、人々はそこからパリ15区ポルト・ド・ヴェルサイユに設けられた行政手続きなども行うAccueil Ukraine へ誘導されたり、そのまま他の都市や国へと旅を続ける人もいれば、目的地によっては12区リヨン駅近くの避難所へ誘導される人もいる。この体育館の滞在期間は最長で3日間。短時間でも休息がとれる大切な場だ。3月9日に避難所として開かれた時はベッドが並んでいるだけだったが、そこに、坂氏の紙管ユニットシステムで42のプライベート空間が作られた。80人ほどがここで休息をとっている。
「プライバシーは基本的な人権」と坂氏。避難してきた人のなかには避難所のユニット内で一人になって、感情がほぐれたように泣き始める人もいるという。理想は「閉鎖しすぎず、適度なプライバシーが保てる、フレキシブルな空間」。また、間仕切りはコロナ感染対策にも重要だ。
リサイクル紙を使った紙管は軽く、安い(今回はポーランドでもフランスでも寄付)。また組み立て・解体が簡単などの利点がある。坂氏の建築事務所はヴェルサイユの建築学校に呼びかけ、学生7人が組み立てに携わった。学生にとっても貴重な実地の経験だ。組み立ては1時間半ほどで全作業が完了。フランスではこのシステムの避難所は今回が初めてだが、他にも需要がありそうだ。「必要なところがあれば、どこへでも行きますよ」と、プリツカー賞の建築家が言ったのは印象的だった。「ポーランドやフランスが素早く難民を受け入れるように、日本もできるようにしておくべき」とも。
ウクライナ人の避難のために、赤十字、エマウスほか多くの人道的支援団体が携わっている。この体育館の避難所の運営はオロールAuroreに託され、22人のメンバーと、ボランティア10人が働く。ボランティアのひとりザウールさんは、2008年にロシアが侵攻したジョージア出身。難民としてフランスにやってきて、今回は仕事を中断してロシア語とフランス語の通訳を申し出た(彼は仏語、露語、トルコ語、アゼルバイジャン語、グルジア語を話す)。パリは常に避難所なのだ。(六)