
マクロン大統領は11月27日、イゼール県の山岳歩兵隊基地を訪問した際、「危険を回避する唯一の方法はそれに向けて準備することだ」と述べ、来年から志願制の10ヵ月の兵役(service militaire volontaire)を導入する意向を明らかにした。
大統領は自ら2019年に設置した普遍国民奉仕 (SNU)を廃止し、18~19歳を中心とする10ヵ月間の兵役を来年から開始すると明らかにした。SNUは15~17歳を対象とし、救命措置、無線、教育・文化・防衛活動などの訓練(2週間×2回)を休暇を利用しておこなうものだったが、実際にはあまり普及しなかった。
新設される兵役は純粋に軍事訓練をメインにするもので、来年1月から募集を始め、選抜された約3000人が9月頃から始動する。これを2030年には1万人に、35年には5万人に増やしていく方針だ。
志願者は職業軍人の後方支援としてテロ警戒巡回や沿岸警備など国内で活動し、国外には派遣されないという。8割は18~19歳が対象で、兵役後に高等教育機関に進学することができる。残り2割は25歳までのエンジニア、データ分析、看護など専門分野を持つ人たちが対象。兵役に就く人には月800€の報酬が支払われる。財源は2026年からの国防5ヵ年計画にそのための予算20億€が組み込まれている。兵役を終了した人が職業軍人(現在20万人)や予備役となることも期待されている。現在、予備役は4.5万人いるが、これを2030年には独や北欧諸国並みの8万人にしたい考えだ。
ウクライナ戦争により欧州で危機感が高まるなか、マクロン大統領は「ロシアは欧州市民にとって実存主義的脅威である」(3月)といった危機感を煽るような発言を繰り返してきた。11月18日、仏軍トップのファビアン・マンドン統合参謀総長がロシアの脅威を理由に「フランスは子を失うことを受け入れるべき」という、まるで若者が戦争に行くような言い方に衝撃が走ったため、大統領は兵役の若者をウクライナに派遣することはない、と強調しなければならなかった。
調査会社イプソスの27日の世論調査によると、国民の62%(18-24歳では43%)が志願制の兵役に賛成している。与党連合や共和党は賛成だが、共産党のルッセル全国書記は「フランス人は自分たちの子を失う用意はできていない。われわれの戦争ではない」と発言。極右の国民連合(RN)のルペン氏も、「マクロンはロシアの脅威を誇張している」などと批判。マンドン参謀総長の発言に反発した服従しないフランス党(LFI)支持者でも反対の声が高い。外国への仏軍派遣には国民の70%が反対している。
欧州諸国では、ロシアと国境を接する国はもとより、ほかの国々も徴兵制度を復活・強化する傾向にある。フィンランドは徴兵制が義務で50~60歳までの予備役義務の65歳引き上げが検討されている。エストニアは8~11ヵ月の徴兵、女性は志願制。リトアニア、スウェーデン(女性も義務)、ラトビアなどでは2015年から2023年にかけて9~15ヵ月の徴兵制が復活した。デンマークは兵役を4ヵ月から11ヵ月に延長し、来年から女性も対象になる。
フランス(1997年)と同様に一旦は徴兵制を廃止した国々も、オランダは2023年からベルギーとドイツは来年からと、志願制の兵役が復活傾向にある。欧州諸国に対して攻撃の脅しをしかけてくるロシアに対し、共同防衛を強化する欧州全体の動きにフランスも従わざるを得ないようだ。(し)



