〈インタビュー〉
まだ日本酒を知らない人たちに、飲んでもらうきっかけをつくりたい。
日本酒啓蒙家 シルヴァン・ユエさん
フランス人に日本酒を語らせるなら、この人。今や欧州最大級の日本酒フェアとなった 「サロン・デュ・サケ」主催者、シルヴァン・ユエさん。パリはもちろん、全国で利き酒セミナーも開いてまわる。日本酒のおいしさ・楽しみ方をフランス人に説いてまわる情熱の〈日本酒啓蒙家〉。2012年には、日本酒造青年協議会からフランス人として初めて 「酒サムライ」の称号を与えられている。
フランス人の日本酒への関心の推移。
昨年4回目だった「サロン・デュ・サケ」の来訪者数は、3日間で35カ国から4千人、今年は5千人を見込んでいます。これは日本酒への関心の高まりを示す数値です。日本の税関のデータによると、フランスの日本酒輸入量は、2017年に57%増加している。ヨーロッパで28%、世界では19%の増加ですから、それらと比較してもフランスの輸入は爆発的に増えているんです。
フランス人の日本酒消費の特徴は?
フランス料理との調和を楽しもうとしていること。シェフたちが日本酒もフランス料理に合うことを発見して、今、レストランや試飲イベントなどで提案していることが理由だと思います。あと、一部の消費者の知識のレベルが高くなっていること。ブルゴーニュ、ボルドーなど、さまざまな地方やタイプのワインを楽しむように、日本酒も地方による米や酒の違い、そして純米酒と吟醸の違いなどにも興味を持つようになっています。単価が高い日本酒を輸入しているのもフランスの消費動向です。芳香性の高いものが好きだから、吟醸などの高級酒になるのかもしれません。
日本酒を幅広い人に飲んでもらうのに難しい点は。
フランスではSUSHIブームがやって来たとき、中国の白酒が「サケ」として食後に出されることが多かったので、いまだに「サケはアルコール度が強い」というイメージがはびこっている。それを説明するのにいつも時間をとられます。あとはセミナーなどで、参加者が感じる日本酒へのハードルを低くしようと「日本酒はワインと似ている」と言うと、彼らはワインの特徴を日本酒に求めてしまいがち。例えば酸味。ワインは日本酒より酸味が5~7倍ほど強いから、ワインを基準にすると「日本酒は酸味がなくて物足りない」となる。ワインと日本酒は「違うもの」として、それぞれの違いを楽しんでもらうようにしています。飲む温度もお酒によって冷酒、ぬる燗、熱燗など、さまざまな温度で楽しめたり、酒器もバリエーションが楽しめるのが日本酒。おちょこには陶器もあれば、竹、メタル、切子ガラスだってありますよね。
これからは日本酒を 「民主化」したい。
まず高級店で日本酒を出し、次第にファンの裾野を広げていくという普及のさせ方は、最初はイメージ戦略としてはいいと思う。いいレストランならいい素材を使うから、お酒との調和もすばらしいものが生まれますから。でも、お酒は「高級」なものだけではないし、食事にはそうでない酒が合うこともある。酒を発見する状況もそれぞれ。居酒屋で日本酒に目覚める人もいればバーでの人もいる。今回の「酒巡り」のイベントには、高級レストランから大衆的なバーまで参加します。この機会に初めて日本酒を出す、という店も珍しくない。その店で働く人たちにとっての、日本酒との初めての出会いになったら嬉しい。色々な人たちに、色々な状況で日本酒を飲んで欲しい。どんどん日本酒を「民主化」するのも、今後の課題です。
Salon du Saké :
10月6日(土)〜8日(月)
NEW CAP Event Center :
1/13 Quai de Grenelle 15e
お酒と料理ペアリングのアトリエは、「カキと日本酒」「モダンなビストロ料理と日本酒」「フランス料理と日本酒」「伝統的ビストロ料理と日本酒」など。要予約 http://salon-du-sake.fr/ja/