フルーティーな日本酒だから、柑橘類を。
GrandCoeur シェフ ニノ・ラ=スピナさん
マレ地区、ダンス・スクールと共用している石畳の中庭には教室から音楽が流れ、テラス席に座れば、チュチュの少女たちが目の前を駆け抜ける。
愛媛県の八木酒造部「山丹正宗 しずく媛 純米吟醸」とコラボするレストラン、GrandCoeurのシェフ、ニノさん。「フローラルでフルーティーな香り。口に入れると、さくらんぼのような酸味。味が持続し、存在感のある感じが白ワインのようだと思いました。日本の料理以外でもいけるお酒だと思います」。イベントで新酒に合う料理を作った時以外は、店で日本酒を出したことはない。
今回は山丹正宗に合わせて、鶏卵とキャビアを使った一品を創作。故郷シチリアが柑橘類が豊かなことと(パリに来る前はマントンにいた)、酒の果実香にちなんで、オレンジ、レモン、グレープフルーツを使い、10年来住むフランス産のキャビアを加えた。小さな卵に果物の酸味、磯の香りとクリーミーな卵が詰まったセンス輝く一品。
「イタリアンでもなくフレンチでもなく、自分の旅や経験から生まれる料理」が彼の料理だという。アンコウの味噌釜など日本の素材やテクニックも使う。すだちやゆずなど、やはり柑橘類が好き。
雪のようなお酒と、フランス食材でつくる山形の郷土料理。
Médiacafé 料理人・醸造酒専門家 うのゆきえさん
「おだやかな吟醸香が、のびやかに口の中でふくらんで花開き、〈雪解け酒〉となって喉を流れてゆく感じ」と、山形県の月山酒造の『銀嶺月山 純米吟醸 月山の雪』について語るうのさん。今回の酒巡りのために山形の郷土料理「だし」を、自分なりにフランスの日常の食材で作り直した。「日本酒の香りを表現するのによく使われるフヌイユ(ういきょう)をベースに、昆布でしっかり旨みを作り、塩レモンやしその香りがするペルシア料理のスパイスを加え仕上げました」。もう一品はポークのロースト。低温でじっくり焼き、酒かすと行者ニンニクのオイル漬けでさらにマリネする。エスパス・ジャポンに新設されたカフェでこの2つのメニューが楽しめる。
「一見、相性が悪そうな吟醸酒と豚料理ですが、酒かすが自然に肉の表面を覆い、オイルの中の香りを通しながら、あの香ばしい味を肉に忍ばせる」。日本酒と合わせる料理は、どう酸味をつけるかに配慮する。酸味が米の酒をぐっと引き立てるからだという。
うのさんの日本酒講座にはフランス人も多い。「日本文化への愛着がある方が大部分で、皆さん真剣勝負でぶつかってきます。ワインのように、その1本ができるまでのストーリーに関心を持たれています」。
雪室で熟成したお酒は、舌平目の白ワインソースで。
Semilla 客室責任者 アドリアン・スパニュさん
サン・ジェルマン・デプレ地区にあるSemilla/セミーヤは、MOF(フランス最優秀職人章)の称号を持つシェフ、エリック・トロションさんのレストラン。東京・丸の内にも店を持っていて、日本酒との関わりも長いシェフだ。隣のレストランFreddy’s/フレディーズでは、小料理(タパス)を日本酒と楽しめるように、お酒を出すことも多い。
今回、酒巡りに参加するセミーヤには、フランスの日本酒コンクール「Kuramaster」審査員も務めるアドリアン・スパヌさんが働いている。彼らがペアを組むのは、新潟の「八海山 雪室貯蔵 純米吟醸3年」。山田錦、ゆきの精、五百万石の3種の米を使った酒を、魚沼に古くから伝わる、雪を利用した自然の貯蔵庫「雪室」で3年間熟成させたもの。
そんな特別なお酒にシェフが選んだのは舌平目。エシャロット、フュメ・ド・ポワソン、クリームなどを入れた白ワインソースをかけ、焼いたセロリを添えた。
日本酒で、ベトナム小料理をつまむ。
An di an di 料理人・共同経営者 ナット・パムさん
2014年に友だち3人で立ち上げたレストラン、An di an di/アンディアンディ(ベトナム語で「食べな食べな」の意)。3人ともベトナム系フランス人。酒といえばもっぱらワインで、店で日本酒を出すのは初めてのこと。パートナーのお酒は石川県宗玄酒造酒の「宗玄純米 Sword of Samurai」。この5月、イタリアのワイン見本市で賞を獲得しているお酒。
メンバー3人にはそれぞれ得意分野があるが、新しいことをやるときは意見を出し合って決める。宗玄純米はフルーティーで軽やかな口当たりなので、肉、野菜、豆腐、魚介類などを使ったフランス・ベトナム風タパスを合わせることにした。ベトナムには庶民的な居酒屋があって、軽いビールを飲みながら小料理をつまめるのだという。酒巡りの週は、アンディアンディも、フレンチ・ベトナム風タパスを日本酒で食べられる居酒屋に変身する。