
『Put Your Soul on Your Hand and Walk 手に魂を込め、歩いてみれば』パリ先行上映リポート
絶え間なく続くイスラエル軍のガザへの攻撃……。在仏40年のイラン人女性監督セピデ・ファルシは、メディアに届かない内側からの声を拾うべく、ガザ北部に住む24歳のフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナさんに接触。2024年4月、初めてWhatsAppでのビデオ通話に成功した。
親子ほどに年の離れた2人は、不安定な通信環境に振り回されながらも、親密な会話を重ねていく。ファトマさんは監督を信頼し、日々の不安や将来の夢、愛する家族や友人、祖国について語る。「鶏肉とチョコが食べたい」「将来は外国で学びたい」「失うものはない。ガザを誇りに思っている」。
2025年4月15日、本作はカンヌ映画祭の「ACID部門」で上映が決定。その喜びをファトマさんと分かち合うも束の間、翌日、彼女は爆撃で家族と共に命を落とした。

そのあまりに過酷な運命を担ったドキュメンタリーが、フランスで9月24日から劇場公開される。それに先立ち、9月20日にパリ10区のLe Louxorで、監督出席の先行上映会が実施された。
映画の上映後、監督は長く温かい拍手に包まれて登場。ファトマさんの大きな顔写真パネルとともに立ち、会場からの質問に丁寧に答えていく。「私は戦争を描こうとしたのではありません。パレスチナの人が何を感じているのかを、人間的な視点から知りたかったのです。彼女は交流することを強く望んだ人で、自身の写真や詩、歌を送ってくれました。それらは美しく、エネルギーと生に溢れていました」。

劇中ではファトマさん撮影のガザの写真が多々挿入されている。廃墟の狭間でたしかに息づく生命にハッとさせられる。そして、映画を見て誰しも惹かれるのが、ファトマさんの笑顔だろう。「彼女の笑顔の素晴らしさに、誰もが驚きます。もちろんいつも同じ笑顔ではありませんでした。抵抗の笑顔であったり、尊厳が備わっていたり、時に鬱状態に陥り、心ここに在らずの時も。後半では飢餓や疲れも見えました。とはいえ、私はモントルイユの上映会で、ある観客に、『この笑顔はよく知っています。シリアのクルド人だった私の母の笑顔と一緒なのです』と言われたのが印象的でした」と語った。
客席からは熱を帯びた言葉も飛び出した。「私は今のフランスが恥ずかしい。パレスチナのことを話せば、『反ユダヤ』『極左』とレッテルを貼るのだ。メディアのプロパガンダが心配です」と訴えた男性は拍手を受けた。それに対し、監督も共感の言葉で対応した。「メディアでなナラティブには大いに警戒して下さい。そして、ガザで悲劇が現在進行形で起きていることは、決して忘れないで。行動には責任や犠牲も伴います。以前、イラン人女性の自由のために、外国の人々が声をあげ、髪を切るという行動が広がったのはとても嬉しかったです。しかし、多くのイラン人女性に、直接的な影響までは与えられなかった。まだ、声が十分ではないのです」と語り、よ 一層の連帯の行動を求めた。
「ファトマと彼女の家族は殺されてしまった。しかし、映像を見ていると、彼女は生き続けているのだとも思います。私には可能な限り、彼女の存在を遠くまで伝える責任があります。『死について言えば、もし私が死ぬなら、響き渡る死を望む。ニュースの速報や数字の羅列に名前が載るよ うな死は望まない。世界中に知れ渡るような死、永遠に続く痕跡を残す死、時間や場所によって埋もれな い永遠の姿を望む』と彼女自身が願っていたように」。(瑞)
★ インスタからファトマさんの写真が鑑賞できる。www.instagram.com/fatma_hassona2/?hl=fr
★ 日本では12月5日から『手に魂を込め、歩いてみれば』のタイトルで劇場公開予定。https://unitedpeople.jp/put
★ブリュッセルでは現在らファトマさん撮影の写真展「FATMA HASSONA THE EYE OF GAZA」(2025年12月13日迄)が開催中。 Cinéma Galeries : Galerie de la Reine 26 1000 Bruxelles
