ミテフスカ、ズロトヴスキ、シアマ、ディオップ、メドゥール……。まるで何かの呪文のようだが、これは2019年に本欄で紹介した女性監督の名。そして今年最後の記事もまた、図らずして女性監督の作品になった。「女性らしい感性」などという表現は避けたいが、それでもこのドラマの設定には唸(うな)らされる。一言でいえば、宇宙飛行士とママ業の両立。巷に宇宙がテーマの作品は数あれど、壮大で哲学チック、時に荒唐無稽で正直こちらの感情が追いつかないこともあった。しかし本作は形容矛盾のようだが、実に地に足がついた宇宙飛行士映画だ。
シングルマザーの宇宙飛行士サラは、一年の長期ミッション「プロキシマ」のクルーに選ばれる。夢の実現に喜ぶものの心残りは8歳の娘。出発前には訓練が山積みだが、それ以上に辛いのは娘との別れ。心と体、双方の入念な準備が必要となるだろう。
監督は『裸足の季節』の共同脚本家としても知られるアリス・ウィノクール。主人公のサラはエヴァ・グリーンが演じる。国境を超えた活躍ぶりに彼女がフランス人女優であることを忘れてしまいがちだが、今回は脚本に感銘を受け祖国の映画に戻ってきた。強さと柔らさを併せ持つグリーンは「子持ちのスーパーヒロイン」にハマり役である。
サンセバスチャンやトロント映画祭で激賞された本作は、米アカデミー賞国際長編映画賞部門のフランス代表として、『レ・ミゼラブル』『Portrait de la jeune fille en feu』とともに最後の三本に残った秀作(結局代表は『レ・ミゼラブル』に)。80年代、かつて日本では「子連れ出勤」の是非を巡り「アグネス論争」なるものが起きた。だが本作を見ると、問題を二者択一で片付けられる時代は過ぎたと思わされる。その辺りも見た人の感想を聞きたくなるし、なにより周りと感動を分かち合いたくなる前向きで温かい作品だ。坂本龍一の音楽、宇宙飛行士トマ・ペスケの友情出演、山崎直子さんら女性宇宙飛行士へのオマージュと、隅々に至るまで嬉しい話題も事欠かない。(瑞)