印象派の画家、ギュスターヴ・カイユボット(1848-94)の家族が所有していた別荘が修復され、一般公開が始まった。
11ヘクタールの広大な庭園は、町を流れるイエール川に沿ってゆったりと広がり、その一角に、ローマのボルゲーゼ公園にある「ラファエルの家」をモデルに建てられた白亜の邸宅。カイユボットはここで1860年から87年までバカンスを過ごし、川遊びや、庭、近くの町の風景などを、80点ほどの作品に描いた。
(左)「イエール川のカヌー」(1877) イエール川では、泳いだり、釣りをする情景も描かれている。 © Ville de Yerres(右)「ビリヤード」(1875)邸宅の修復により、このビリヤード室も復元された。 © Studio Sebert
パリから南東20キロのイエール渓谷。画家カイユボットの父親は、軍隊に寝具を売って財を成し、1860年にこの別邸を購入した。オスマン県知事が進めるパリ大改造で、一大工事現場となっていた都市の喧騒から逃れるため、富裕な家族が別荘を構えた地域だという。パリからは隣町モンジュロンまで鉄道が伸び、そこから車が出ていた。辞書で有名なピエール・ラルースも1866年、近くに家を買っている。
ギュスターヴが生まれた1848年、カイユボット家は10区フォブール・サンドニ通りに住み、店を経営していた。別荘に行き始めた年、ギュスターヴ少年は12歳。広い庭、この季節、緑がまぶしいほどの近くの森やイエール川で思いっきり遊んだのだろう。父親は川辺にボート乗り場も設置。美術史家セルジュ・ルモワーヌ氏は「晩年のモネにジヴェルニーの家があったように、初期のカイユボットにイエールがあった」とこの別荘の重要性を位置付ける。(次ページに続く)
(左)カイユボットが好んで描いた菜園。近くの学校や市民グループが手入れし、花は満開、野菜も豊作だ。(右)19世紀初頭の所有者(現在パリも2区Montorgueil通りにあるレストラン”Au Rocher de Cancale” のオーナー)が作らせた東洋風の東屋。その下には氷室。今はもう氷はないが、中はヒンヤリ涼しい。
とはいえ、今日に残るカイユボットの作品は、70年に法学を修めて肖像画家レオン・ボナに師事するようになった後のもの。画家志望の息子のため、父親はこの別荘内にも、パリにもアトリエを作る。別荘購入の6年後にもパリ8区ミロメニル街77番地に館を建てるなど、父親は羽振りがよかった。
カイユボットが友人の印象派の画家たちの絵を買い、印象派展開催の費用を負担したりとメセナでもあったのはこんな父親ゆえだろうか。彼は73年には国立芸術学校(ボザール)に入学したけれど、当時の資料からはボザールにはほとんど行かず、もっぱら独立系の画家たちとの交流に忙しかったのではないかと推測されている。
カイユボットと弟は、両親が亡くなると1879年にこの家を売り、オスマン通りのアパルトマンとジュヌヴィリエの家を買う。どちらも多くの作品に描かれた場所だが、今、前者は銀行ソシエテ・ジェネラルの本社、後者は航空機・ロケットエンジン生産のSNECMAの工場となっている。(六)
INFORMATION
邸宅は、11/1 までは火〜日 : 14-18h30。入館8€。16歳以下・障害者無料(館内エレ有)。庭園は9h開園で無料。季節により開館時間が違うので要確認。
- パリからRER D線、Melun行きでYerres駅下車徒歩15分。標識Propriété Caillebotteを目印に歩くと便利。
- カイユボットのアトリエを展示室にし、個人や美術館から10点ほどの作品を借りて展示している。
- カイユボットのように、イエール川で舟遊び!
8月:週末と祭日の15h-19h。9月:週末15h-18h
小舟(4人乗)30分5€、カヌー(3人乗)30分4€から。
Propriété Caillebotte
Adresse : 8 rue de Concy, 91330 Yerres , FRANCETEL : 01.8037.2061
URL : proprietecaillebotte.com