連載 : PROのプロフィール
♫ わたしたちのバカンスの家で
子どものころ過ごした村で
夏が来ると、またすべてが始まる
夏、夏が来ると
それは、夏のお祭り、夏… ♫
( 『アン・プリヴェ~東京の休暇』 (1992)収録の 「L’été」 から。)
*記事の最後に2022年春のビデオ。
クレモンティーヌと夏。
名曲「L’été 夏」を繰り返し聴いていたせいか、歌手クレモンティーヌというと夏のイメージが浮かぶ(アルバム「エル・デテ~夏時間」のサブタイトルは〈一年中、夏で過ごしたい〉だ!)。連絡をとってみると果たして彼女は … プロヴァンスの家でバカンスを過ごしていた。
「旅も好きだけど、テラスに座って読書とか、料理をして友人を招いたり、いたって普通のことをしながら田舎の家で過ごすのが好きです。あと、泳ぐのが大好き。毎日泳いでます」。
… まるで自身の歌のなかから出てきたようなバカンスの光景!… どこまで現実でどこからがアートなのか…。歌う時より低めの、深みのある話し声… アーティストの夏の世界に、すぅーっと引き込まれた。
30年来、バカンスが苦手な人々の国・日本を活動の舞台としてきたが、歌うのはバカンスばかりではない。幼い頃から浸ってきたジャズ、ボサノヴァから、ポップ、アニメ。中島みゆきも「8時だよ全員集合」も、バーチャル歌手初音ミクとのデュエットも自分の音楽にしてしまう。
1988年、ソニーフランスから「Absolument Jazz」をリリース。2枚め「Continent Bleu」は父親が創ったレーベルから。日本で大ヒットした「アン・プリヴェ~東京の休暇」のプロデューサー井出靖氏は、初めてクレモンティーヌの「Absolument Jazz」を聴いた時「彼女のウィスパーボイス。やられた。このサウンドはきっと日本人にピッタリだ!」と感じた、と記している。井出氏のもとに集まった一流ミュージシャンたちと、日本での息の長いキャリアが始まった。
新しい出発
コロナで、もう2年間も日本へ行っていない。「日本が恋しい〜!こんな長く行けないなんて初めて」(枝豆と生ビールも恋しいそう)。だがその間、アルバム「Quel temps fait-il?」を制作した。デビューからずっと日本をメインの活動の場としてきたけれど、今回はフランスで、自分でチームを組み、選曲した。すべてを自らプロデュースするのは初めてで「歌うだけではない〈私の〉プロジェクト。会社を作るみたいだった!」。今まであまり撮ってこなかったミュージックビデオもネットで次々と公開。フランスの新聞、雑誌の取材、テレビにも出演するようになった。新しい出発だ。
今はこのアルバムに収まっている、ピアフの「Souviens-toi des Flonflons du bal 」のリミックス版を日本の編曲家と準備中。この秋にフランスと日本でリリースする予定だ。日本のブルーノートでの公演も調整中だという。
また、クレモンティーヌは初めて1988年にアメリカのジャズマン、ベン・シドランと初めてデュオを収録したが、そのシドランがこの10月に来仏し、パリ15区のジャズクラブ「バル・ブロメ」でデュオの可能性があるという。それは、聴き逃せない!
新しい作詞家との出会いもあった。「私の母親は私が歌うために、オーダーメイドのようにテキストを書いてくれた。私のこと、私の性格など…を言葉に書いてくれたんです。母が亡くなってからは私と夫のファブリスで歌詩を書いてきたけれど、やはり母が書いてくれたものとは違うんです。…でも、いいテキストを書く人が現れて…このバカンス中もテキストが送られてきていて…」。
甘美なバカンス中も、実は仕事を着々と進めているようだ…「音楽を聴きながら、これを歌うとしたら誰の編曲がいいかな、とか、いつもいつも考えてる」。
前出のプロデューサー井出氏は「音楽は引き算」とも書いている。「引き算」の大切さは多くの分野にあてはまるだろうけれど、昨冬のクレモンティーヌのコンサートで感じたのは、まさしくそれだったと思う。ある芸の域に達した人のみができる、引き算のすばらしい舞台だった。この秋が楽しみだ。(六)
Facebook @clementineofficiel
Instagram @clementineofficiel
オフィシャルサイト : www.sonymusic.co.jp/artist/Clementine/
クレモンティーヌ:
ジャズシンガー。フレンチポップ、ボサノヴァなども歌う。レコードコレクターでジャズレーベル「オレンジ・ブルー」を設立した父親ヴィクトール・ミッツと、「なんでも器用にこなす」母親のもとパリに生まれる。家族でメキシコに10年ほど住んだが、その頃から(6歳)からピアノを習い、パリのジャズスクールでもピアノを続け、今でもずっと弾いている。父親の友人に勧められ1988年 “Absolument Jazz”をCBSフランスでリリース。初めて日本を訪れたのは1992年。30年近くになるキャリアで、日本での売り上げは400万枚にのぼる。
★10年前には、当時リセエンヌだったクレモンティーヌの愛娘ソリータさんに、サン=ジェルマン地区のお気に入りの場所を紹介してもらいました。☞「生粋のSGP娘ソリータ」