サッカーW杯がカタールで11月20日に始まった。カタール開催が2010年に決まってから欧米を中心に批判の声が上がっているが、フランスでも開幕をきっかけにこの問題がメディアを賑わせている。
批判の内容は、W杯インフラ建設に携わる人の劣悪な労働環境、環境負荷、LGBT(性的マイノリティ)の非寛容問題、カタール開催決定に関する汚職疑惑などだ。
インフラ建設では、インド、バングラデシュ人などの労働者の劣悪な待遇への懸念の声が当初から上がっていた。雇用者が保証人となり外国人を雇う中東諸国独特の 「カファラ制度」は、労働者の移動・職場変更の自由を奪う強制労働と批判された。
国際労働機関(ILO)の勧告によりカタール政府が同制度を廃止したのは建設がほぼ終わった20年になってから。しかも、過酷な労働環境から病気や事故で死亡した労働者が多い(ILOによると20年までの10年間で約600人、NGOは数千人とする)ことも問題視された。たとえば仏建設ヴァンシの子会社はトラムウェイなどの建設現場の劣悪な労働環境に関して捜査の対象になっている。
また、環境面でも、大規模な建設やスタジアムの冷房による大量のCO2排出(推定360万トン)に批判が集まった。国際サッカー連盟(FIFA)とカタールは、CO2排出分を森林保護や再生可能エネルギー事業への支援で相殺することでカーボンニュートラルなW杯を謳っていたが、目標達成にはほど遠い状況だ。
カタール開催決定に関する汚職疑惑はフランスも直接関係している。19年から始まった捜査によると、サルコジ元大統領が2010年11月に当時の欧州サッカー連盟プラティニ会長、現カタール首長を大統領府の昼食会に招き、欧州のFIFAメンバーに影響力を持つ同会長にカタール開催を推薦するよう要請した疑惑が持たれている。
サルコジ氏とカタール首長の関係は親密で、同氏の友人が所有するパリ・サンジェルマン(PSG)クラブのカタールによる高額買収(11年に実現)、エアバス80機とラファール戦闘機24機の売却、W杯インフラ建設への仏企業の参加、ラガルデール社へのカタール出資、12年の大統領選挙資金の提供など、カタールW杯開催支援の見返りがいろいろとあったのではないかと疑われている。
こうした批判から、フランスでもカタールW杯ボイコットを呼びかける声があり、多くの主要都市は大スクリーンによる試合の実況中継をしないと決めた。マクロン大統領は「スポーツを政治化すべきではない」と発言したが、世界の一大イベントとなったW杯は金と政治に取り込まれてしまった感がある。(し)