特別寄稿|コロナ後の社会と町づくり【上】とあわせてお読みください。
今後パンデミックを防ぎ、より快適な生活をするためには何をすべきか。
ウイルスの増殖を防ぐためには、人から人への感染を少なくしなければならない。そのためには濃密接触が頻繁に起こる過密都市をなくすことが必要となる。パリを中心とした施政に他の市町村(コミューン)が依存、追随するのではなく、それぞれのコミューンの行政を独立させ、強化することが望ましい。これは、パリ首都圏の機能性を高め、さらに巨大化を推し進めようとする、「グラン・パリ構想」に逆行する考えである。巨大都市の人口を分散化し、さまざまな自立圏を各地に築き、それぞれの地域を住人にとっての生活の中心とすることが必要だ。
各自立圏を 「生活の場」であると同時に 「仕事の場」や 「憩いの場」にすれば、寝るだけの町や仕事をするだけの地域もなくなる。それを可能にする新たな圏域は、巨大な団地や際限なく広がる建売住宅の建設を避け、使われていないさまざまな建物を住宅やアトリエや店舗などに再生し、なお不足していれば、小規模で人々にとって快適で、その土地に馴染んだ複合集合住宅を造る。コンパクトな町は 「生産の場」や 「労働の場」や 「生活の場」が隣接することを可能にし、住民の日常生活で必要なものをその近隣地域内で作り出し、自給率を高め、テレワークを可能にする新しいタイプの住宅も作られる。
地域の自立は、外からの持ち込みや外への排出を出来る限り減らし、その圏域内での自給自足をすること、すなわち、エコロジカルな生活を実践することである。そのためには、人々がマスコミなどによって駆り立てられた欲望の解消としての、製品、文化、娯楽の消費生活から、生活そのものや憩いや創り出すことへの喜びへの転換が必要になってくる。
パンデミックは人口密度が低くても起きる可能性はある。しかしながら、新型コロナウイルスの蔓延は、大都市では収束し難いものの、マイエンヌ県やヴァル・ドワーズ県のように、地方でははるかにコントロールされやすい例を私たちは目の当たりにした。巨大都市の人口を減らし、出来るだけ多くの緑地を新設すれば、過密を防ぐ緩衝地帯を生み出し、より健全な都市へと変化する。他方、過疎地には人々が移住し、地域経済にも活気を与えることにもなる。
生活の仕方や経済のシステムなどを変えるためには、人々に一定程度の負担を与えるだろうが、現在コロナとの 「戦い」のために注ぎ込まれている巨額の予算を、その負担軽減のために使うほうがはるかに有効であるし、「治療より予防」のことわざ通りである。しかも、現在COVID-19による不自由な生活を続けるよりはるかに容易で建設的である。ロックダウンはわれわれに多くの不自由と苦痛を与えたが、同時に、大都会ではこの短期間に空気が澄み、動植物は生き生きとした。この事実は、今まで不可能だといわれていた、健全な地球の回復がわずかな期間の人々の活動停止によって可能になることを示唆してくれた。
新型ウイルスの発生を防ぐために出来ること。
新たなウイルスの発生を防ぐためには、人類が地球上の全ての生物と共存し多様性を保障する、持続可能な環境を保障する必要がある。それは一地方や国だけで解決できる問題ではない。しかし、限られた資源の無駄使いをなくし、水やエネルギーの有効利用をすることは、それぞれの地域でできることのひとつである。
エネルギーに関しては二つの課題がある。一つはどのように再生可能なエネルギーを獲得するかであり、もう一つはどのようにその消費量を減らすかである。人類はいまだに大量の化石燃料を消費し続けている。その問題は地球上からその資源が枯渇するということよりも、地球の環境バランスを崩すところにある。原子力は地球を一気に破滅に導きかねないコントロール不可能な技術なため、代替エネルギーとすることはできない。それらに代わるのは風力、太陽光、水力、地熱、潮力、波力、バイオマスなどの持続可能なエネルギーである。ただし現時点では一箇所で大量に電力を獲得することは困難である。そこで重要になってくるのがいかに消費エネルギーを減らすかである。
もう一つは、先に述べた都市や国土開発の再編成である。移動の減少は消費エネルギーの削減である。さらに、送電中に電力が喪失されるのを減らすため、小さく地域ごとに発電をし、地域ごとに消費することが望ましい。
建設に関しては、いかに少ないエネルギーで、高質で再生可能な建物を造るか、また、無駄に多く消費しない建物を造ることである。現在、世界各地で巨大建築が建てられているが、それらの建物を造るためにも、鉄、セメント、ガラス、プラスチックなどの材料を作り出すのに膨大なエネルギーが消費される。巨大都市の分散化やテレワークが一般化したときには、それらの巨大建物の必要性は減少する。それは省エネ、景観、環境の観点から見ても望ましいことだ。
省エネ開発は、冷暖房を必要としない建物と環境を造ることが基本である。その解決策として、庇 (ひさし)をつけることや、壁や屋根などに熱を蓄え潜熱を利用したり、周囲に植物を配したり水を蓄える方法などがある。さらに建物の気密性や断熱性を高めると同時に、新しい技術を導入すれば、消費量を最小に抑えることが出来る。その上、各建物に太陽光発電や風力発電の装置を設置すれば、外からのエネルギー供給を必要としないエネルギー自立の建物を造ることが可能である。土地が自然に備えているエネルギーを最大限に引き出すと同時に、すでに存在している全ての構築物を最大限に有効利用することが大切である。無駄を省き、木や土や石のような再利用可能な自然素材を優先して使い、その土地やその場にあるものを最大限活用する。その結果、各地方独特な風景をつくりだすことになり、環境と社会への融合をも促す。野生動物たちが自由に活動できる空間を確保することにもなる。
我々に残されている時間はあまりないような気がする。しかし、一気に全てを変革することは混乱ばかりを起こしかねない。そこで実現可能なプログラムとプランニングを作成し、それらを確実に実行に移すシステムを立ち上げる必要がある。そのための解決案を総ての人々との共同作業で早急に打ち立てる必要がある。われわれは、そのような活動に参加する用意がある。
成瀬 弘 (なるせ・ひろし)
1972年に来仏し、ジャン・プルーヴェ事務所に勤務。
1973年にレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースの建築設計事務所「ピアノ&ロジャース」 に入社し、77年までポンピドゥセンターの設計に参加する。1982年Atelier Preuss-Naruse、1994年Atelier Kabaを設立。
http://www.atelierkaba.fr/