総選挙の決選投票で、左派連合「NFP(新人民戦線)」が最大勢力になったのは、7月7日のことだった。与党連合の敗北を受け、アタル内閣は7月16日に総辞職。大統領が主勢力NFPから首相を任命し、新しい連立政権を構成することが待たれていた。しかし、大統領が首相を任命しないまま、40日以上が経過した。
NFPは、元経済省官僚リュシー・カステ氏をNFPの首相候補として選び、彼女を任命するよう大統領に呼びかけてきた。カステ氏自身も、大統領が「オリンピック停戦」として首相任命を先送りし、フランスが五輪で浮かれていた頃、フランス国民宛ての手紙をSNSに投稿したり、議員たちに手紙を送った。そのなかで、選挙の結果は有権者が2017年以来のマクロン政権からの変化を欲している現れであることを喚起し、公正な課税制度、賃上げ、公共サービス保護などを諸勢力と協議しながら実現していきたいとアピール。8月後半にはNFPの構成政党が開催する夏季セミナーに登場し、新しい政府発足への意気込みを大勢の支持者たちの前で語るなどの活動を続けてきた。
いっぽうマクロン大統領は8月23日になってようやく議会の各構成勢力との協議を開始。2日間にわたって、NFP、中道、右派、極右、両議会の議長を大統領府に招いて話し合いを行った。その後、声明を出し、「NFPの内閣ではすぐに不信任案のもと解散することになり、国が安定しない」、だからカステ氏を首相に任命しないと説明。首相人選のための協議を続けるとした。
これに対しNFPは、カステ内閣に関する話し合いでないならもう応じない、とボイコット。NFPの構成政党のひとつ「服従しないフランス(LFI)」は、大統領弾劾の手続きを行う姿勢を表明した。これによって大統領が退陣させられる可能性は低いようだが、大統領も、国際的なイベントであるパラリンピック中には避けたいことだったかもしれない。9月7日には、大統領に抗議する行進も呼びかけられている。
前出の声明に、大統領は、「私にはフランスが停滞し弱体化するのを避ける責任がある」と書いているが、6月の欧州選挙後、突如国会を解散し、早々に総選挙開催を決めるなど混乱の種を巻いたのは誰だったか。あたり前のように、選挙の結果を無視するのを、なぜ人々は追求しないのか。不可解なことが多い。(美)