全3回連載【世界一の麻の生産地ノルマンディー】
①麻の歴史、栽培と加工。麻フェスティバルへ。
③麻を食べよう。
ノルマンディーの麻畑を実際に見て、麻産品・麻製品を発見しようと、パリ・サンラザール駅から列車でイヴトYvetot、そこからバスに乗ってドゥドヴィルDoudevilleまで行った。
ルーアンと大西洋岸フェカンのほぼ中間点にあるこの町(人口2500人)は18世紀頃から織物産業が栄え、1880年には大きな布市場が建てられた。1970年代まで続いたその布市場(現市庁舎)では、綿や毛、麻の織物が取り引きされ、麻生産者や仲買人が集まって麻の品質や価格について話し合いもしたという。
セーヌ・マリティーム県の西半分の地方は、紀元前4世紀頃からここに住み着いたケルト人カレット人Calètesを語源として「コーの国 pay de Caux」と呼ばれる。コーの国にあるドゥドヴィルとその周辺には18~19世紀に6000~7000人の機織り工がおり、綿、毛、麻の糸を紡ぎ、布を織っていた。紡績機や織機が普及するとルーアン方面に産業の中心は移ったが、テキスタイル業で財を成した大邸宅がドゥドヴィルの幹線道路沿いに今でも立ち並ぶ。麻畑に囲まれ、麻織物の歴史を持つ町ドゥドヴィルは「麻の都」を名乗り、コロンバージュ(木骨構造)の家が並ぶこじんまりとした感じのいい町だ。
ドゥドヴィルの麻祭り
この「麻の都」では6月下旬の週末に麻祭りを行っている。布市場だった立派なレンガ造りの市庁舎前の広場に大きなテントが4つ。その中には、服地、キャンバス・刺繍用の麻布、麻のリネンや洋服、バッグ、小物などのスタンドが並ぶ。また、麻の油を15~20%用いた石鹸、固形シャンプー、麻の実粉と麻の実入りのパン、麻の実入りのビールも。スナックスタンドでは、麻の実入りソーセージを麻のパンではさんだサンドイッチなどを売っていた。観光客もいるが、村祭りといった感じの和気あいあいとした雰囲気だ。夕方には地元デザイナーによる麻の服のファッションショーがあったが、残念ながら電車の時間があって見られなかった。
エコミュゼで、麻栽培を見せてもらう。
町の中心地から車で10分ほどの田園の真ん中に麻のエコミュゼ兼農家の「Au fil des saisons」がある。経営者のアントワンヌさんが見学者をまずは麻畑に案内し、麻の種まきから収穫までの各段階を説明(①麻の歴史、栽培と加工を参照)。
麻は連作してはいけないため6~7年間はほかの作物を育てるのだという。実った麻を機械で引き抜いた後に、昔は沼や川に浸けて茎を発酵させて表皮と繊維を分離しやすくしていたが、今は畑に3~9週間寝かせて夜露や雨が同じ役目を果たす(途中で麻の束を機械でひっくり返す)。
畑での説明の後はエコミュゼに入り、昔ながらの道具で繊維を取り出す方法を実演してくれた。茎を木製の打ち機ではさんで繊維と表皮を分離し、半月状の道具でたたいてさらに不純物を取り除く。さらに金属の櫛状のものに通して梳く。すると、まるで人間の髪の毛のようなグレーの繊維がとれ、それが製糸に回される。今はすべて機械化された工場で行われているが、昔ながらの道具で見たほうが工程がわかりやすい。
エコミュゼになっている建物は細長い平屋のレンガ造りで、この地方の典型的な農家。ここと近隣の農家産の野菜、果物、シードル、蜂蜜など、そしてもちろん麻の実も売っていた。外には馬、牛、羊、鶏が放し飼いされ、子どもを麻畑見学に連れて行く車を引くロバがたたずんでいた。のどかな風景に心が洗われるようだった。
次回は「食べる麻」(麻の実)について紹介したい。(し)
●ドゥドヴィルの麻祭り Le Lin en Fete-Doudeville
毎年6月下旬の金~日(2023年は6月23~25日)。
テント内スタンド、エコミュゼなど、入場無料。
www.doudeville.fr/decouverte-lin/evenements/le-lin-en-fete/
●麻農家兼エコミュゼ La Ferme au fil de des saisons
1352 Route de Yémanville
76560 – AMFREVILLE LES CHAMPS
Tél. 02 35 56 41 46
水・金14h – 18h、土 9h30 – 12h.
La Ferme au fil de des saisons
Adresse : 1352 Route de Yémanville, 76560 AMFREVILLE LES CHAMPS , FranceTEL : Tél. 02 35 56 41 46
URL : 水・金14h - 18h、土 9h30 - 12h