全3回連載【世界一の麻の生産地ノルマンディー】
②ドゥドヴィルのエコミュゼと麻祭り。
③麻を食べよう。(オリジナルレシピ付き)
フランスは麻の生産量で世界一
ノルマンディーの友人から、麻畑に紫の花が咲き始めたと6月に電話があり、麻の季節がやって来たことを思い出した。フランスの麻の耕作面積は約7~10万ha、麻繊維の生産は世界一で年間9.5万トンだ。
麻〜正確には亜麻lin(アマ/リネン)〜はオランダ、ベルギーから仏北部のパ・ド・カレー、ソンム県、ノルマンディーのセーヌ・マリティーム、ウール、カルヴァドス県などが主な産地で、ノルマンディーだけで世界の麻繊維の約50%を産する。比較的温暖で気温差の少ない気候と適度な降雨、肥沃な土壌が麻生産に適しているのだそうだ。
亜麻は灌漑不要で、肥料も農薬もほとんどいらない。栽培に大量の水や農薬が使われる綿に比べると環境負荷の少ない作物だ。しかも、茎から取られる繊維は軽く、丈夫で、耐水性、体温調整機能に優れ、衣服、家具用の布やリネン類のほか、紙(紙幣、タバコの巻き紙)、建材の断熱材に使われるほか、工業用素材としては家具、スポーツ用品(スノーボードなど)、車・航空機、スピーカーなどにも利用される。繊維を取った藁(わら)は花栽培の敷き藁や猫砂、種子からは亜麻仁油が採れるし、捨てる部分がほとんどないエコロジカルな植物だ。
人類最古の繊維
亜麻は人類最古の繊維といわれ、紀元前8000年のメソポタミアに起源を持つ。そこから世界に伝わり、フランスでの最古の麻の種と繊維の存在は紀元前2000年にさかのぼる(ちなみに日本でも古代から大麻や苧麻/ラミーが麻織物の原料として栽培され、明治時代には亜麻栽培が北海道で普及したが1960年代にすたれ、現在は多少復活している)。中世から北部、ブルターニュ地方などに栽培が普及し、17世紀には耕作面積が30万haに至り、19世紀には麻の製糸機械が発明されて仏北部が欧州の麻製糸の中心地になるが、綿に押されて1945年には2万㏊に落ち込んだ。
現在では工業用新素材の需要もあり復活してきている。「リネン」という言葉がlinから来ているように、リネン類では伝統的に麻が重用されている。
ところで、麻糸はどうやってできるのだろうか? 麻は3月半ば~4月半ばに種をまかれ、6月に青紫または白い花をつける。7月になって茎が黄色になると機械で抜いて収穫。そのまま畑に3~9週間寝かせる。その後、茎部分の殻を除いて繊維だけにし、長い繊維と短い繊維に分ける。短い繊維は断熱材やその他の工業部門に使用され、長い繊維のみが梳かれてテキスタイル用に。長い繊維は、60~70℃の湯に浸して柔らかくし、繊維を合わせて長い糸にする。糸が細くて均一なものが高品質とされる。湯につけない手法で作られた糸は太くてごわごわしているので衣服以外の用途に。糸は生成りのグレーか、漂白・染色されて織物やニットになる。
100%フランス製の麻をめざして
フランス産の麻繊維の8割は中国などアジアで糸に加工され、布や最終製品を逆輸入してきた。せっかく豊富にあるエコロジカルな麻を生かそうと、「麻繊維産業を100%メイド・イン・フランスで」という機運が高まり、2019年にはアルザスの製糸工場が麻製糸を復活させ、ノルマンディーにも今年2月にウール県に国と地域圏の援助を受けた会社が製糸を開始し、6月にはノール県でも製糸の一部がポーランドから国内回帰した。麻織物や麻ニットの工場もノルマンディー、ノール県、ヴォージュ県などに少数ながらあり、今後ますます増えていきそうだ。
麻フェスティバル
7月8日(金)~10日(日)には、セーヌ・マリティーム県北部の10市町村で、麻の収穫のデモンストレーション、繊維に加工する工場や麻織物工場の見学、麻テキスタイル見本市、ファッションショーなどの催し物がある麻フェスティバルが開催される。パリから電車で行けるディエップやイヴトからバスはあるものの本数が少なくアクセスしにくいのが難だが、時間に余裕のある人や車がある人にはお勧めだ。3日間通し券15€、催し1件につき5€など。
次回は同じくセーヌ・マリティームのドゥドヴィルで6月に開催された麻フェスティバルとエコミュゼについて。(し)