
殺虫剤の使用を再容認する新法案。
農業活動への規制を少なくして農業をやりやすくすることを目指す法案が7月8日に国民議会で可決・成立したが、とりわけ農薬アセタミプリドを例外的に使用できる条項に反対する署名が28日に200万筆を超えた。
この法案は、2024年初頭の農業従事者の大規模な抗議運動を受けて、ロラン・デュプロン上院議員(共和党)が農業分野の環境保護規制の緩和を目指して提出したもの。「デュプロン法案」と呼ばれ、2日に上院で可決され、8日には国民議会で共和党、極右の国民連合(RN)と中道の一部の賛成で可決した(316票対223票)。
法案の内容のなかで最も問題視されたのは、EUでは2033年まで許可されているが仏では2020年から使用が禁止されているアセタミプリド(ネオニコチノイド系)を代替手段がない場合に期限を設けず例外的に使用できるという条文。この農薬は主に砂糖用甜菜の栽培農家が、使用できる欧州他国に対して非常に不利であることを理由に使用再開を求めている。
他には、「重要な公益」にかなうとされる農業用巨大貯水池の建設許可を取りやすくする、鶏や豚の畜産規模拡大の際、環境への影響評価が義務となる基準を現行の4万羽から8.5万羽に、豚は2000頭から3000頭に引き上げることなど。
環境保護の後退
この法案に対し、左派諸党は環境保護政策が後退するとして国民議会審議の際に約3500の修正案を提出した。しかし、多数の修正案の審議を避けて法案の成立を急ぐ右派や中道右派は、審議前にわざと法案を却下する採決を可決させ、その結果、両院合同委員会で法案の折衷案が策定され、上院可決後、国民議会で可決成立した。本来の審議を避けるこの右派のやり方は「民主主義の否定」と左派から激しく批判を浴びた。「服従しないフランス」党議員が、がんに侵された農業従事者や近隣住民の名前を書いたプラカードを議場で掲げて抗議する場面もあった。
こうして成立したデュプロン法案に対し、23歳の学生が7月10日に国民議会のウェブサイトから法案反対の署名運動を開始し、わずか9日間で異例の50万筆を突破*。21日に150万筆を超えた時点でジュヌヴァール農業相は政府は議論に前向きと表明したが、その議論が実現したとしても、国会が休みに入るため臨時国会が始まる9月16日以降になる。
2つの自然保護団体は22日、憲法第10条に基づいて法案を公布せず、再審議を命ずるようマクロン大統領に求めた。しかし、大統領は国会議員が提訴した憲法評議会の8月上旬の判断を待ちたいようだ。また、パニエ=リュナシェ=エコロジー移行相と法案賛成派のアタル元首相はアセタミプリドの使用に関してANSESに諮問したい意向だ。しかし、ANSESは2018年と2020年の2度にわたって環境への影響が少ない代替農薬を提案しており、再度のANSES諮問は無駄との声もある。法案反対派の左派や中道の議員は秋にアセタミプリドの例外的使用の条文を破棄する法案を提出する意向で、この問題の決着は秋以降に持ち越されそうだ。(し)
*署名が10万筆を超え受諾できると判断されると、国民議会の該当する委員会が署名を吟味し、報告書を作成するか否かを判断する。30県以上から集まった50万筆を超えると、国民議会の会派議長会議が、議場で議論を行なうか否かを決定する。
