イダルゴ=パリ市長は11月22日、TVトーク番組で来年夏のパリ五輪・パラリンピック大会のための交通機関の整備が「間に合わない場所もあるだろう」と発言した。運輸担当相らが直ちに反論したが、開幕を8ヵ月後に控えて、パリ首都圏住民の不安も高まっているようだ。
来年7月26日から9月8日まで開催される五輪とパラリンピックには国内外から1500万人の観客の来場が予想されている。パリ市と郊外の25ヵ所の競技会場にはすべて、自転車シェアサービス「ヴェリブ」も含めた公共交通機関で行けるようにするのがパリ五輪組織委員会の方針だが、通常より1日80万人上乗せになると見積られる乗客を交通機関がどうさばくのかが問題だ。そのため、首都圏高速鉄道(RER)B線・D線整備、E線延長、メトロ14番線延長、自転車レーンの整備など多数の工事が実施されており、一定期間の区間運休や夜間・週末の運休など利用者への影響も大きい。
イダルゴ氏はRER・E線の延長によりポルト・マイヨ駅とラ・デファンスの間の線は必要な便数を満たす車両台数が足りないなどの例を挙げ、すでに首都圏住民の日常生活に対応できない混雑路線があるのに、五輪開始までに問題を解決できない場所もあるだろうと発言した。パリ西のパルク・デ・プランス、ロラン=ギャロスへのメトロやRERの便数不足、増便される列車やバスに必要な人員の不足、全会場に自転車で行けるように自転車レーン計30kmの増設、ヴェリブの3000台増加、パリのメトロはエスカレーターやエレべーターが少なく身体障害者に適していないため、予約制のシャトルバスを運行するなど、整備すべき交通インフラのリストは長い。
首都圏交通管理当局は特に五輪開催中に影響を受けるメトロや列車の路線があることを認め、パリ首都圏住民にはこの期間、なるべくテレワークをしたり、バカンスをとるよう促している。10月11-12日の世論調査では、仏全国では「五輪開催はいいこと」とする人が65%(2年前は76%)に対し、首都圏住民では「よくないこと」とする人が44%に上り(2年前は22%)、首都圏住民の不安を反映している。首都圏住民の81%、全国の66%が交通を不安要因の1位に、首都圏住民の73%、全国の住民62%が安全・治安を不安要因の2位に挙げている。ウクライナ戦争、インフレ、中東情勢など不安材料が継続するなか、不安のほうが五輪を楽しむ気分を上回っているように思われる。(し)