
パリ軽罪裁判所は3月31日、極右政党、国民連合(RN)の重鎮マリーヌ・ルペン氏を、欧州議員時代の公設秘書を架空雇用し公金を乱用したとして禁固4年(うち執行猶予2年)と罰金10万€、即時適用の被選挙権5年間停止の判決を下した。
この件は、2004~16年にRNの前身である国民戦線党(FN)が党ぐるみで同党の欧州議会議員の公設秘書をその秘書の仕事でなく、党の仕事をさせていたという疑惑で、FN・RNが不正に欧州議会から得た秘書の報酬はおよそ410万€(約6億4千万円)と言われる。ルペン氏のほかに、ルイ・アリオRN副党首(禁固18ヵ月、うち執行猶予1年、即時適用でない被選挙権停止3年)、ニコラ・ベイ元FN事務総長(禁固1年、即時適用の被選挙権停止3年)、ゴルニッシュ元FN副党首(禁固3年、即時適用の被選挙権停止5年)など党の幹部ら9人の現・元欧州議員および、12人の元議員秘書にも執行猶予付の禁固6~12ヵ月の有罪判決と一部に1~2年の被選挙権停止が言い渡された。ルペン氏とともにこのシステムを築いた3人のFN元幹部も1.5年~3年の禁固刑で有罪に。政党としてのFN・RNにも罰金200万€が科された。

この裁判の焦点となっていたのは、検察がルペン氏らに求刑していた即時適用の被選挙権停止だ。即時適用なら、2027年までに控訴審で同氏に有利な判決が出ない限りは大統領選に出馬できなくなる。こうした厳しい判決となったのは、ルペン氏が他の幹部とともに党の運営資金調達のために自ら構築したシステムであると裁判所が判断したこと、被告のなかでもとりわけ議員は民主主義の手本であるべきなのに有権者の信頼を裏切った罪は重いとし、システムの存在を否定し容疑を認めない態度は再犯の可能性が高いと判断されたため、と仏紙は報じている。
バルデラRN党首は「フランスの民主主義が断罪された」と激しく批判し、判決の撤回を求める署名運動をネット上で始め、抗議デモも行うと発言。「議員が選挙出馬を禁止されることは民主主義社会では健全ではない」とは右派のヴォキエ共和党幹部。「服従しないフランス」党(LFI)幹部のボンパール氏は「LFIはRNを排除するのに裁判所を使ったことはない」とし、同党メランション氏も「議員を罷免する決定権は人民にある」とした。同氏は、被選挙権停止は刑が確定してから有効にすべきと過去に発言している。同じ左派の社会党、環境保護政党、共産党は裁判所の判決を歓迎し、擁護するとした。外国の反応も多く、トランプ米大統領が司法から叩かれた自らのケースと似ていると共感を示し、プーチン露大統領は「民主主義の規範が侵された」、ハンガリーのオーバン首相やメローニ伊首相からも今回の判決を批判する声が相次いだ。こうした事態に、司法官高等評議会が「判決への批判は司法の独立を脅かすもの」と共同声明を出す異例の事態になった。

当のルペン氏は同日夜のニュース番組に出演し、「判決は政治的判断」、「法治国家が冒涜された」などと判決を強く非難し、控訴する意向を表明。若いバルデラRN党首に希望を託すよりもむしろ、控訴審の早急な実施による無罪判決の獲得と4回目の大統領選挙出馬に意欲満々の姿勢を見せた。(し)
