イタリアと並んでバッグメーカーが多いフランスでは、バッグにこだわりを持つ人も多い。数あるメーカーのなかでも国内生産にこだわるブランド 「レオン・フラム」のアトリエを、中部のシャティヨン・シュール・アンドルに訪ねた。
レオン・フラムは、1924年に同名の皮革職人がパリで興した旅行カバン製造会社。航空郵便会社「アエロポスタル」のパイロットらに人気があったが、1930年代に廃業。それから80年後の2011年に、レオン・フラムのひ孫ギヨーム・ジボールさんにたまたま出会ったルイ・エポラールさんが、是非そのブランドをリバイバルさせたいと、2人で翌年に新生レオン・フラムを設立した。
昔の商品写真をもとに現代感覚を加味してブランドコンセプトを創り、仕入れ先から縫製下請けまで一から探してパリで創業。16年にはシャティヨン・シュール・アンドルにアトリエを構え、従業員2人で自社製造に踏み切った。
案内してくれたルイさんの父フレデリックさん(アトリエ責任者)によると、この地方では以前に栄えた繊維産業も衰え、高級皮革製品メゾンの下請けがいくつかあるだけという。家族の別荘があること、革製品産業の人材がいること、さらに雇用創出する企業へのEUの支援プログラムがあったことから、パリジャンの父子はここにアトリエを構えることにしたのだ。17年にはそのEU支援で新築のアトリエに移った。「モード産業はあまりエコではない。だから、うちは国内で生産し、長く使ってもらえるものを作っている」と現社長のルイさんは言う。
材料の子牛革は環境負荷の大きいクロムなめしでなく、主に植物タンニンなめしのものを国内・イタリアから仕入れる。ナチュラルなものから、鮮やかな色やメタリックカラーまでいろいろだ。それを手や機械で切って部分ごとに糊で固定した後でミシン縫いする。訪問時は、手帳カバーを製造中だったが、縫い目の最後の糸を焼き切ったり、縫い終わりを縫い目の間に隠したりと仕上げも丁寧だ。植物なめしはやや硬いが、年月とともに柔らかくなり、風合いが出てくる。まめに手入れをすれば何十年も持つそうだ。
旅行カバン、バッグ、ブリーフケース、パソコンバッグ、ポーチなど革が主だが、キャンバス地(ノルマンディー産)も使っている。今は紳士用が7割を占めるが、今後は18年に始めた婦人用を増やしていくそうだ。キーホルダー、名刺入れ、ノートカバー、ベルトといった小物類もあり、エリゼ宮(大統領府)ロゴ入り「エリゼグッズ」(キーホルダー、名刺入れ、パスポートカバー)の売上の12%はエリゼ宮修復工事に寄付される。
パリの直営店は2018年にたたみ、今はネット販売のみ。ネットを生かして自社中古品のショップ(Instagram)も設け、持続可能な消費という企業理念を実践している。生産高は現在、年間5千個。社員も3年で4人から12人に増やし、婦人向け商品と輸出 (欧州、米、日本)を増やしていきたいとルイさんは意欲的だ。(し)