「産業に押し付けられた尺(時間)の強制は追い払うべき」と涼しい顔で言い放ち、10時間前後の映画を連発してきたフィリピンの鬼才ラブ・ディアス監督。でも安心してください、今回は4時間34分。前作『悪魔の季節』(約4時間)の時と同様に、映画ライターの間では「最近はディアスもよく短編を撮るね」と冗談を飛ばし合う。
実際に見ればさすがに「短編」とは思わぬが、筆者の場合は体感時間は2時間くらいであった。ほぼワンシーン・ワンカットのモノクロ映像で一見淡々としているものの、いろんな感情が掻き立てられるから睡魔なんぞ寄り付かない。ただし休憩なしの一挙上映なので、トイレが近い人はご注意を。
火山爆発の影響で太陽が昇らぬ2034年のマニラ。メンタル弱めの独裁的な大統領と、メンタル強めの女性幹部らが統治する。疫病が蔓延し、市民は怪しい予防接種を強制され、外を歩けばドローンに身分証明書の提示を求められる。増えるのは精神病院の患者と両親を殺されたストリートチルドレン。歪んだ社会でレジスタンス活動をする男や高級娼婦となる女、いく人かの日常が緩やかに交錯する群像劇である。
とにかく雨が降りっぱなし。それは浄化や恵みの雨ではない。なすすべもなく集団鬱に罹ったような市民の頭上に降る諦めの雨だ。軒先で濡れたご飯を食べる人、傘を差さずに歩く人。だが、後半になれば徐々に雨も止んでくるようだが……。
描かれるのはモラルと真実の死。支配者が率先してフェイクニュースに加担する世界の成れの果ての姿があり、完全に2019年の現実と地続きのドラマだ。近未来ディストピアSF風の設定は明快で、やや威圧感のあるディアス映画の入門編としても最適だろう。(瑞)