アカデミー賞国際長編映画賞では世界の強敵をなぎ倒し、『パラサイト 半地下の家族』『レ・ミゼラブル』とともに、さりげなくファイナリストの5本に残った作品がある。それがヤン・コマサ監督のポーランド映画『La Communion』。ポーランドは昨年の『COLD WARあの歌、2つの心』に続き、2年連続で最終選考に作品を送り込んだ。国の年間製作数は40〜50本なのだから“大健闘”と言ってよい。
少年鑑別所暮らしの20歳の受刑者ダニエルの物語。仮釈放中に家具作りのアトリエで働くため、地方の村に送られた。彼は成り行きから嘘を吐き、ついには留守中の司祭の代理を務める。
フランスには「L’habit ne fait pas le moine. (僧衣が人を僧にさせるわけではない)」という諺があるが、どちらかと言えば、日本の「馬子にも衣裳」に近い話だ。主人公は司祭の服に身を包み、カリスマティックな言動で周囲の目を巧妙にくらます。自己陶酔型のパフォーマンス説教だが、現代の政治家の振る舞いや、それを受け入れる愚民の姿に通じる。とはいえ、映画はそれだけで満足はしない。奇妙な闖入者の登場で、保守的な村に渦巻く見えない悪意や憎悪まで浮き彫りにするのだ。住民も僧衣を着ていないだけで、ダニエル以上に矛盾を孕(はら)んだ存在のようだ。
ポーランドの実話がベースだが、ヨーロッパ映画が陥りがちのだらしないナチュラリズムの表現に流されるわけではない。劇映画として締めるところは締める演出で、一見地味でも退屈知らずで引き込まれる。人口3800万人のポーランドで130万人を動員したというからお見事。歴史の荒波を乗り越え、肝が座ったポーランド映画の魅力が広く知られるのは、いよいよこれからだ。(瑞)
3月4日公開。