Ikejimeは、 漁業全体を活性化させる。

パトリック・フェルナンデスさん

 パリ11区、バスチーユ近くのブレゲ・ビル。1階にはパン屋、ワイン屋などが並び、春めいた中庭のカフェテラスでは人々が語らう。そんな新しいミニ商店街の一角に、パトリック・フェルナンデスさん(41)の「Ikejime/ 活け締め」鮮魚店、EBISUがオープンした。

 パリ市が半民半官で経営する会社SEMAESTが、この新築ビルに入るテナントの審査に当たった。住民の生活に必要な商店であることが第一条件だが、その商店が「革新的」であることも重視される。フェルナンデスさんのプロジェクトは、フランスではまだ広くは知られていない「活け締め」を紹介する点が審査の決め手となり、テナント3候補のなかから選ばれた。

 フェルナンデスさんは、ヴェルサイユの隣町サン・シル・レコール生まれ、シャルトル育ち。22歳の時に友人の紹介で「魚」の世界に入ってほぼ20年。マルシェでの販売から鮮魚店経営まで、この職業を知り尽くしたと思っていた3年半前、初めてIkejimeを知った。

当時、フェルナンデスさんは、いい魚を提供することができる漁師に会いに足を運んでは、漁場の特性や獲れる魚の種類や量、品質、味などの情報を蓄積する「sourceur」という職に就いていた。こうして「いい魚をどこで、誰から手に入れられるか」を熟知したタイミングで、高級懐石料理店「奥田」のオーナー、奥田透さんと出会う。氏はパリで最初の「活け締め」鮮魚店をオープンしたばかりだった。フェルナンデスさんが「師」と仰ぐ奥田氏は、フェルナンデスさんに築地市場を見せるために彼を日本に招き、その後、彼から活魚を仕入れるようになった。

パトリックさんが今でこそ仕入れのベースとしているブルターニュ地方のキブロン港でも、漁師から活魚を卸してもらうのは容易ではなかった。従来のやり方ではなく「日本の伝統的なやり方」でと言っても耳を貸さない人も多く、設備投資が必要となれば、説得するのは余計に難しい。

 とはいえ、船から食卓まで魚を丁寧に扱い、質と鮮度を保つこのやり方で販売すれば、魚をよりおいしく食べられることで、魚の価値が増す。種類にもよるが、魚を3割ほど高く売れるという利点もある。食べる分だけ締めるから無駄がない。それらのことが、長期的に漁業の価値を上げ、活性化につながり、若い人たちが漁業に興味を持つだろう、というパトリックさんのビジョンと熱意が少しずつ伝わり、ひとり、ふたり、賛同する漁師が出てきた。

そんな、信念を分かち合う大切なパートナーたちの写真が店内の壁を飾る。キブロン市営の鮮魚卸売り市場のディレクターも、市場内の生け簀(す)を拡大するなど、活魚販売に本格的に乗り出した。フェルナンデスさんは現在、4隻の船から活魚を仕入れている。

 高い天井の、130㎡のEBISU店内。800ℓの生け簀にはトラックから運ばれてきたカレイが放たれたばかり。店ではキブロンから週に1〜2回のペースで鮮魚を仕入れて販売する。高級レストラン向けの活魚や活エビ、潜って獲るアワビ、ホタテなどから、日常的に買えるサバ、アジなども扱う。店頭で締めるもの、キブロンで締めるものなどもあるが、それらは明記する。

 今後は、フランスでも日本でも一部で行われている魚の熟成にも力を入れる予定だ。熟成によって魚の旨味やコクを深めるには、種類によって温度や期間も違ってくるなど奥が深いが、まずはイシビラメや舌平目などから始めたい。パトリックさんの挑戦を、漁業の神・EBISUさまが、きちんと見守ってくれますように。(美)

 

店内の高いところに恵比寿さま。フェルナンデスさんが「一世一代のプロジェクト」と語るこの店を見守るかのよう。

オープニングの日には、パリ市11区のフランソワ・ヴォグラン区長も訪問。活け締めについて説明するフェルナンデスさん。

フェルナンデスさんと共に店の経営をしている、エプロン姿の妻ティーさんは、オープニング初日は来客のおもてなしに奮闘。テナント審査にあたったパリ市のSEMAESTのジョエル・モレル氏、フィリップ・デュクル氏。

 

 

 

 


Poissonnerie EBISU

Adresse : 30-34 rue du Chemin Vert, 75011 Paris
アクセス : M°Richard Lenoir
水〜土 8h30-13h / 16h-20h (火〜土 試食アトリエ)