この10月、仏語辞書プチ・ロベール電子版に「iel」(イエルと発音)が加えられた。elle(s) 彼女(複数) / il(s) 彼 (複数) /ils 彼ら(男女混じる場合は男性複数形)と同じ人称代名詞の第三人称だが、iel(複数形iels)は性別を問わない。LGBTQやフェミニストなどが使ってきた。
掲載が発表されると、特に保守派知識人が「フランス語を破壊」「権力転覆を狙う反体制派の策略」などと声をあげ、かつて仏語教師だったマクロン大統領夫人も「人称代名詞はふたつ(il/elle)でいい」、ブランケール教育相「フェミニズムは重要な大義だが、フランス語をこねくりまわすことを正当化するものではない」と否定。
これら反対派は、ielの辞書掲載は「社会を分断するもの」とみなす。人種、性別、宗教、障害などによる社会の少数派が平等を求める動きは、それぞれが自らのアイデンティティーにこもることで社会を細分化する、と危険視する。かねてから”包括的表記 écriture inclusive” (左頁)にも批判的だった。
ある言語学者は、政治家による包括的表記批判は定番の 「épouvantail (こけおどし)」だと言った。国民にとって真に重要なことから、国民の注意をそらすために使う定番の手口。うまい表現だと思う。(集)