
だいぶ前になるが、南仏の小さな町にある友人の別荘で年末年始をすごしたことがあった。その友人が、片手からはみ出しそうな大きい卵を買ってきた。近くの農園で飼育されているエミューの卵だという。オムレツをつくってくれたのだが、もったりとした食感の不思議な味わいだった。そういえば、カモの卵もどこか大味で、やはり鶏卵のうまさにはかなわない。
オムレツomeletteは人気の卵料理で、たいていのカフェで、プレーンなものomelette natureやハムとおろしチーズ入りのものomelette jambon-fromageをとることができる。フランス人は「バヴーズ baveuse」とたのむことが多い。バヴーズは、よだれをたらしているという意味だが、なるほど、オムレツからとろりとした半生のところが流れでてくる。フランス人たちは、それをパンですくっては味わい、目を細める。
まずこのバヴーズをつくってみよう。ボウルに4人分として卵8個を入れて丁寧に割りほぐし、軽く塩、コショウし、きざんだパセリを混ぜ入れる。フライパンを強火にかけ、油とバターを大さじ2杯ずつ加え、まんべんなく広がるようにフライパンを丸く動かす。バターが泡立ってきたら、卵を入れる。フライパンの底や縁にくっつきかけている卵を木のへらで素早くはなし、フライパンの真ん中に寄せる。中火に落とし、それからはフライパンを絶えずゆらしつつ、木のへらで混ぜ合わせつつ、火を通していく。縁が焼けてきて真ん中はまだとろとろっというときに、フライパンを傾けて二つに折り合わせ、すべらせるようにして大皿にとる。これを食卓で各人の皿にとり分ける。オムレツには、ハムやチーズだけでなく、水っぽくないものなら何を入れてもいい。ジロール茸などのキノコを入れたいときは、あらかじめキノコをいためて水気を出してから加えることにしよう。
ポーチドエッグoeuf pochéにナイフを入れると黄身があふれ出る。これをうまく味わいつくしたいので、トーストしてバターを塗ったパンにのせたり、バターいためしたホウレンソウの上にそっと置いたり、レンズ豆と組み合わせたり、ポタージュに浮かべたりする。付け合わせの用意ができたところで、卵をポシェすることにしよう。底広の浅めの鍋かソトゥーズに水を張り、卵白が凝固しやすいようにビネガーを大さじ1杯加える。沸騰してきたら卵を入れるのだが、あらかじめ一個ずつ茶碗に割り入れ、できるだけ鍋に近づけ、そっと流し込む。白身が散るようだったら黄身のまわりに寄せる。卵が新鮮でないと白身が散りやすくなるものだ。3分たったら、網じゃくしですくいあげ、1分ほど水につけて黄身が煮えつづけるのをおさえ、キッチンペーパーの上に置いて水気を切る。
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はじめてみよう、フランス料理!㉝ フランス風に卵料理。〈その1〉
たまごの選び方は?œuf à la coque、œuf molletは、œuf dur、œuf sur le plat、œuf brouillé …応用編「oeuf mimosa」まで、卵料理の基本を学びましょう。

Desserts aux oeufs
デザートにも卵が大活躍。
デザートにも卵が大活躍する。クレープcrêpe、プリンcrème aux oeufs、チョコレートムースmousse au chocolat、チョコレートケーキgâteau au chocolat、クラフティclafoutis…ときりがない。プリンには牛乳1リットルに対し6個から8個の卵が入るし、クレーム・アングレーズ(イギリス風クリーム )と呼ばれているカスタードソースには、牛乳半リットルに対し、6個分の卵黄が入る。残った卵白はどうなるの、と心配してしまうが、うまいことにイル・フロタントîle flottante(浮いた島)」がある。卵白をしっかり泡立てて砂糖を加え、湯せんにかけながらオーブンで焼き、カスタードソースに浮かべ、さらにカラメルソースをかけるデザートだ。パン屋では卵白が大量に残るので、メレンゲにしたり、アーモンド粉を混ぜ入れてマカロンを焼くわけだ。
