米格付け会社フィッチ・レーティングス社は4月28日、フランスの国債(ソブリン債)信用格付けを「AA」から一段階引き下げて「AA-」にした(AAは「非常に高い信用力」)。同社は引き下げの理由の一つとして、年金改革への抗議運動を挙げている。ルメール経済相は「悲観的評価」と直ちに反論した。
ムーディーズやS&Pとともに世界の3大格付け会社の一つ、フィッチ社は仏国債の信用格付けをマイナス展望のAAから安定展望のAA-に格下げし、その理由を仏国家の債務と財政赤字に加え、「政治の行き詰まりと抗議運動がマクロン大統領の改革計画へのリスクとなり」、インフレなどによる国家予算の増大を促し、実施済み改革の転覆を生じさせる可能性があるためと説明した。さらに、政府の年金改革法の強行採択が急進的勢力や反体制勢力を促進し、それによる社会不安の増大にも言及した。
ルメール経済相はこの格下げ決定を悲観的評価と批判し、ムーディーズはフランスの格下げをしていないと反論。また、フィッチ社は年金改革などの諸改革の好影響を過小評価しており、今後4年間で「構造的改革を継続し」財政の立て直しに全力を尽くすと発言した。これに対し、服従しないフランス党(LFI)のコクレル国民議会財政委員長は格付け会社も「マクロンの年金改革のやり方にレッドカードを出した」と皮肉り、共和党は財政赤字を軽減できない政府を批判。一方で、年金改革による国民の不満を抑えたいボルヌ首相は、26日に中流家庭への減税の方針を発表したが、これは財政赤字の軽減に逆行する。政府は、エネルギー価格の高騰に対する支援策の終了や、インフレによる税収増、経済成長による完全雇用、来年度予算の引き締めなどを模索しているようだ。
また、政府は2022年に国内総生産(GDP)の111.6%に達した債務を27年には108.3%にする意向だが、フィッチ社は仏国家の債務の改善のスピードが遅いと指摘。また、財政赤字は22年の対GDP比4.7%から今年は4.9%に上昇すると政府は予測している(フィッチの予測は5%)。コロナやインフレの影響で減らない赤字を政府は2027年までに3%にしたい考えだ。ところが、赤字を減らす牽引となる経済成長率は政府の予測では1%、フィッチは予測を1.1%から0.8%に下方修正している。それに呼応するかのように財政高等評議会も政府の経済成長予測は楽観的すぎで、インフレを過小評価し雇用改善の見込みは過大評価と批判した。
年金改革でこれほどもめた上、与党が議会の過半数を割る状況で政府は今後、改革を続けていくことができるのだろうか? インフレに苦しむ国民はさらなる改革が国民に犠牲を強いることを恐れて改革には消極的になるだろう。経済学者のなかには今回の格下げをあまり深刻に受け取るべきではないが、政府のように「悲観的評価」と断ずるのも妥当ではないという意見もある。レッドカードではないにしても、イエローカードがマクロン大統領と政府に突きつけられたと言えるだろう。(し)