ユロがフランスのエコロジーに遺した課題
8月末に突然の辞任宣言で世間をあっと言わせたニコラ・ユロ環境連帯移行大臣の後任者が決まった。9月4日に交代式で国民議会議長を務めていたフランソワ・ド・リュジが就任した。
ニコラ・ユロは、テレビの環境番組『Ushuaïa』のレポーター出身で、国民に絶大な人気がある現政権の看板大臣だった。そんな彼が8月28日の朝、生出演したラジオ番組で辞任を宣言し、「もう嘘はつきたくない」と、ほぼ40分間にわたり辞任の経緯を説明しつつ現政権のエコロジー政策の問題を指摘したのだった。早急に取り組まねばならない課題が改めてメディアなどで検証され、国民にアピールされる機会となった。
環境相だった1年と2カ月間、エコロジストの代名詞のようなユロには何ができて、何ができず課題として残されたのか。彼の失敗と成功の主なものを見ていこう。
失敗
内分泌かく乱物質についてのEUのゆるい定義に賛成
EU(欧州連合)委員会が提案した内分泌かく乱物質の定義は「内分泌かく乱物質であるとするための数値が高すぎて、多くの物質がリストからもれる」「農薬を入れていない」とONGから反対されていた緩すぎる規定だった。フランスはロワイヤル前環境大臣が委員会の提案にずっと反対していたが、2017年7月、大臣になったばかりのユロが賛成に回ったことで採択された。内分泌かく乱物質は、ホルモン機能を乱す物質で、食品包装や化粧品などに含まれている。
原発問題
2017年11月、ユロは「2025年にエネルギー生産における原子力エネルギーに成立した「エネルギー移行法」の目標に達するのは無理、とあきらめの発表をした。
グリホサート禁止にできず
2018年5月、世界の主要農薬企業、モンサントの除草剤「ラウンドドアップ」の主成分で、他の農薬にも含まれ、発がん性の疑いがあるグリホサートを法律で禁止することができなかった。政府が提出した「食と農業の法」の法案にはグリホサート禁止の条項がなく、国会で出た禁止案はすべて否決された。「禁止」はもともとマクロン大統領が公言したことだった。
成功
ノートルダム・デ・ランド空港建設計画白紙に
ナント近郊の新空港予定地「ノートルダム・デ・ランド」の建設を政府が断念した。環境汚染が予想される空港建設が取りやめになったことは環境保護派にとって朗報だった。
2040年に炭化水素の採掘を禁止
石油、天然ガス、シェールガスなど、炭化水素やその混合物を主成分とする燃料からは地球温暖化の原因となる二酸化炭素やメタンが出る。2015年のパリ協定を順守し、温暖化を抑えるために、2040年にはこれらの採掘を禁止するという法律を成立させた。しかし、ランド地方の採掘場などが例外となった。
ほかにもユロが公言した環境政策はあるが、法制化されていないので、これからどうなるかわからず、成功の中には入れることはできない。
後任者ド・リュジーは自称「信念の強いエコロジスト」
ユロの後を継いだフランソワ・ド・リュジ元国民議会議長は自称「信念の強いエコロジスト」で「エコロジーと経済を対立させない」と言っている。また、ユロとことごとく対立した農業ロビー寄りの「ステファン・トラヴェール農相とは闘わない」と就任後ツィートした。
ヨーロッパ・エコロジー=緑の党から社会党に移り、2017年大統領選挙の左派予備選挙に出たときは「マクロンにはエコロジー政策がない」と批判したが、予選で敗れたあとは、「予選に勝った人に投票する」という宣誓を覆し、一回目投票から「共和国前進」に鞍替えしてマクロンに投票した。この豹変ぶりを裏付ける2017年のテレビ番組の映像が9月4日にSNSで拡散し、1日で21万回も視聴された。
ユロから引き継いだ課題には、エネルギー政策、野生動物の保護と生物の多様性の維持、どうやって原発依存率を減らすか、大気汚染が原因で早死にする年間48000人を半数にするためにどうするか、などがある。ユロと狩猟ロビーは敵対関係にあったが、ド・リュジの大臣就任は狩猟者団体から大歓迎された。こんな調子なので、ユロほどの政策はまったく期待できないだろう。(羽)