カステックス首相とヴェラン保健相は1月7日の記者会見で、新型コロナウイルスのワクチン接種キャンペーン方針を改善し、進展が遅いという批判に応えるとともに、今後のキャンペーンの良好な進展に自信を見せた。
フランスでのワクチン接種は12月27日に始まったが、最初の4日間で接種した人はわずか200人。「このペースなら、国民全体を接種するのに3000年かかる」とパリの市立病院の蘇生科医師が発言するなど、接種体制への批判が噴出し、政府はあわてて方針変更を31日から矢継ぎ早に打ち出していた。
政府の元々の方針は、第1段階は、12月末~2月末に高齢者施設の高齢者と職員100万人、第2段階は3月~5月頃に75歳以上の人、65歳以上の持病のある人(糖尿病、心臓・呼吸器疾患など)および50歳以上の医療関係者で持病のある人の約1400万人を対象とし、第3段階はそれ以外の人となっていた。
ところが、第一段階の高齢者施設で1月1日までにわずか516人、同時点で英国の95万人、ドイツの20万人と大きな開きがあり、スローペースに批判が集中した。医学アカデミーが、禁忌の有無を調べるための医師との面談、本人同意、接種後15分間の様子見といったプロセスが煩雑すぎると簡略化を政府に呼びかけた。高齢者施設に必ずしも常駐医師がいないことや、本人に判断力がない場合に家族に連絡する手間もブレーキになったと7日の会見では説明された。
ヴェラン保健相は31日、50歳以上の医療関係者、消防士、訪問介護員を1月4日から、75歳以上を1月末から接種対象にすること、さらに予防接種センターを稼働させる意向を発表。7日の会見では、医療関係者、訪問介護員に範囲を広げた結果、5日間で4万5千人が接種を受けたとし、障害者施設の障害者および職員も対象に加えるとした。
また、18日からは75歳以上の人を対象に予防接種センターを少なくとも県に一つ、次第に数を増やして300ヵ所、1月末には600ヵ所にするとした。ただし、医師または看護師との面談、同意、15分の様子見というプロセスは継続する。高齢者施設に時間がかかるために第2段階を前倒しにして接種数を増やしていく方針だ。教師を優先したい(パリ市)とか、地域圏独自でワクチンを入手したいという自治体の要望には、今後、大幅に接種を拡大していくため不要だとの見解を示した。
ワクチンは十分あるのか?
このキャンペーン計画に見合うワクチン数はあるのかという疑問もある。政府は、現在、欧州認可済みのファイザーBioNTech社製の100万回分(50万人分)を確保しており、今後、週当たり50万回分(つまり2月末までに450万回分の計算)、3月からは週に100万回分を入荷するとしている。また、2回目接種までの3週間の期間を6週間にすることで間高等保健機関(HAS)の了承を得たため、ワクチン供給にやや猶予を持たせることができると説明した。
6日にEUから認可されたばかりのモデルナ社製も18日から入荷が始まり、認可待ちの他の3社のワクチンも含めて、ヴェラン保健相は7800万回分のワクチンを発注しており夏までに入荷する予定だと発言した。EU共同で11月にファイザー2億回分、モデルナは1億6千万回分発注しているが、EUも世界的に生産キャパシティーが不十分であると認めており、今後ワクチンが順調に入荷できるのか不安は残る。
こうしたロジスティクス面の問題に加え、フランスの世論調査では予防接種をしないと答えている人が46%もいる。医師のなかにも、ワクチンが異例の速さで開発・認可されたため安全性に不安を持つ人もいるほどだ。国民の約60%が接種しないと集団免疫効果がないとされるなか、この数字は大きい。集団免疫ができないとコロナ危機は長引く。
ヴェラン保健相は重大な副作用は10万人に1人の割合とし、接種数と副作用のケースは公にすると約束した。ワクチン自体への不安、接種体制の整備、ワクチン入手といろいろな不安があるなかでの接種キャンペーンのスタートとなった。(し)