帽子やドレスなどを飾るコサージュや羽根は、19世紀末から第1次大戦までのベル・エポックのフランス女性のファッションを思い起こさせる。オートクチュールのメゾン、そしてデパートや既製服が生まれ、ファッションの大衆化の兆しが見え始めた時代だ。コルセットから解放された上流階級の女性も中流層の女性も華やかな帽子を被り、コサージュや羽根で着飾った。その時代から現在にいたるまで伝統的ノウハウを守る社員9人の無形文化財企業(EPV)、メゾン・ルジュロンをパリ2区プティ・シャン通りに訪ねた。
帽子や帽子用の造花を作る1727年創業のアトリエを、現オーナーのブリュノ・ルジュロンさんの曽祖父ルイさんが買い取ったのは1880年。祖父ロジェさんの時代(1930〜40年代)には従業員50〜60人を抱えていた。当時はみんな帽子をかぶっていて、その飾りの花や葉、羽根の需要は高く、同業者がパリに数百件もあったという。しかし、その習慣は第2次大戦後廃れていき、オートクチュールや有名プレタポルテのメゾンからの注文に特化していく。今ではパリでも、シャネル傘下の2社と合わせて同業者は3社しか残っていない(シャネル傘下の2社は厳密にいえばパリの隣のパンタン市だが)。ルジュロンの注文の多くは、ディオール、サンローランなどのコレクションのためのドレスや帽子、靴を飾る花や羽根、映画・演劇、ショーウインドーなどプロ向けがほとんどだが、結婚式用など世界中の個人客からの注文もある。例外的に小ぶりの花のブローチは一般客に小売りしている。
花の素材はシルク、オーガンジー、ビロード、綿、革からスパンコール、ビニール、ラテックスまで実に様々。布の場合、ゼラチンをとかした水に浸けて糊を入れて乾かしてから花びらや葉の形をプレス機で型を使ってカットし、ブリュノさんが自分で96度のアルコールに顔料を混ぜ合わせた染料で染める。グラデーションを入れるなど微妙なニュアンスも手作業だから自由自在だ。次にプレス機で型押しして立体化する。アトリエで職人たちが“こて”で一つひとつの花びらにカーブをつけていたが、型で成形できないものは手作業で対応する。その花びらを軸に刺して花に組み立てる。手動プレス機や道具類はかなりの年代ものだ。
別の部屋ではドレスのスカート部分に一面に羽根を縫い付ける作業が行われていた。幾重にも縫い付けるので手間のかかる細かい作業だ。羽根はダチョウ、ガチョウ、雄鶏、キジなど飼育農家から仕入れ、アトリエで様々な色に染める。蒸気でまっすぐにしてから布地など土台となるものに糊で貼り付けたり、縫い付けたりする。柔らかく華やかなダチョウの羽根のストールは、紐に羽根を8重に縫い付けるのだそうだ。
クライアントのラフなデッサンを具体化させ、見本に仕上げてクライアントに提案する。ブリュノさんは「うちの強みは、難しい注文にも工夫を凝らし、細かい注文に手作業で対応できること」と言う。それを実現する人材は刺繍、羽根職人、造花のコースがあるパリ16区のオクターヴ・フォイエ職業高校などから採用している。(し)
Maison Legeron
Adresse : 20 Rue des Petits Champs, 75002 Paris , FranceURL : www.boutique-legeron.com/fr