セクション3:Affaire de l’Etat
フランス語は国の大事。

最後のセクションでは、国の言葉は国家の根幹を成すという視点からフランス語を見ていく。マクロン大統領はセンター開館の日、「フランス語は国家の統一を打ち立てる」と発言したが、国語の整備は国家の建設には重要だ。1539年のヴィレール・コトレ勅令後も仏語の話者は少なく、地方ごとに異なる方言(patois)が話されていた(今でも72の地方語として残っている)。
16世紀初めには聖書の仏訳が出版され、フランス語による文学も盛んになった。印刷技術の発展や、1882年からの公教育無料化も普及に貢献した。フランス革命も、ラテン語が教会や学者の言葉であるのに対してフランス語を民衆の言葉にすることを目指した。
こうしてフランス語が国語になっていったわけだが、20世紀のグローバリゼーションで英語の勢力が増すなか、1992年にフランス語が公用語であることが憲法に明記されたのは象徴的な意味合いが強い。94年には国の機関などで仏語使用を義務付けるトゥーボン法が成立し、ラジオで流す歌の40%はフランス語であることなどが規定された。英語を取り入れた仏語は「フラングレ」と揶揄され、アカデミー・フランセーズはテクノロジーとともに生まれる新語のフランス語をつける (ソフトウェアがlogiciel、ダウンロードがtéléchargerなど)。カナダ・ケベック州ではフランス語存続の危機感が大きく、1970年代からフランス語憲章などによりフランス語保護が法律で規定されている。
展示の対象が言語であるだけにフランス語の中上級者でないと楽しめない難はあるが、視覚的要素を豊富に用いて最大多数の人に働きかける果敢なチャレンジには脱帽!

Ecriture inclusive(包括書法)
論争ふたたび。
「フランス語では男性形が中性形としても使われる。言葉のなかに点やハイフンを書き込んで読みにくくする必要はない」— マクロン大統領がフランス語センター開館式の演説でこう言ったものだから「包括書法 écriture inclusive」論争が再燃した。男女平等に配慮し、男女混ざっている場合はcontent.e.s. のように「.」や「-」を入れて併記するのを 「読みにくいから不要」とし、従来どおり男性形を使うべきとした。
(従来表記)
Marc et Sophie sont contents.
(包括書法)
Marc et Sophie sont content.e.s.
おなじ包括書法でも、職業名や役職名の女性形をつくることや(président – présidente)、ドゴール大統領が演説で初めて使ったという「Françaises et Français!」のような男女併記は推進されている。だがこのpoint médiant と呼ばれる点の使用に関しては、反対派も頑なだ。「そんな表記をしたところで男女平等は実現されない」と主張する人もいる。
しかし本当に文法上だけの問題なのか? 推進派は、17世紀のアカデミー会員クロード・ファーヴル・ド・ヴォージュラスの言葉「男性形は高貴であるゆえ女性形より優位を占める」を引用し、男尊女卑観のもとに文法が規定され温存されてきたことを指摘する。
仏語センターでは「genre (ジェンダー)」展示コーナーで、ルネサンス期に使われていた、最も近い主語に形容詞をあわせるrègle de proximité (例:Marc et Sophie sont contentes)や、数が多いほうに合わせる例(tes filles et ton fils sont belles)、数年前にプチ・ロベール辞書入りした中性主語「iel/iels」も紹介している。
言葉を通して今の社会のあり方を問うのは有益なことだ。長い歴史のなかでフランスは変わってきたし、これからも変わってゆくのだろうから。

国際フランス語センター ポール・ロンダン館長
「多様なフランス語が共鳴しあう場」。

Cité internationale de la langue françaiseは、どういう場所ですか?
「Cité」という語には、多様なものが共に生きる場、というような意味合いがあります。ミュージアムではなく、言葉を”保存・保護”する場でも、辞書を編纂するアカデミー・フランセーズでもない、様々なフランス語が共鳴しあう場、といえます。なぜなら、「フランス語はフランスのものではなく世界のもの」だから。フランス語の語彙が世界の言語にとり入れられ、同時にフランス語も外国語から多くを受け入れてきた。ここで見てほしいのは、フランス語はツンとすまして孤立しているのではなく、他の言語を迎え・迎えられるということ。また、この 「シテ」は、言語を口実にいろいろなことをやろうという場です。展示見学、コミック・ショーや歌、演劇をたのしみ、食事をし、本を買う。記者、研究者、文筆家ならレジデンスに滞在し執筆。娯楽の場であり 「lieu de vie 生きる場」なのです。
日本からの見学者も楽しめるでしょうか。
大統領と文化大臣には内緒ですが(笑)ここの名称は 「フランス語センター」ですが、私は単に「言語センター」言うこともあります。言語は常に増殖し、形を変え、動き続ける。これは日本語でも同じだと思います。このセンターのように歴史から、地理から言語を考察することはどの言語においても有益です。フランス文化に興味を持って来られる方なら、言葉と文化は切り離せないものですから、ぜひここに来ていただきたいです。
包括書法についてどう思われますか。
上院議会で包括書法を禁止する法案が提案されたのが、男性優位的な立場によるものなら悲劇的だと思います。大統領の「男性形は中性形の役割も果たす」という意見 (右の記事参照)にも賛同しません。仏語に中性語がないのも残念です。でも「マダム、ムッシュー」と両方言えばいい。文章は長くなりますが、それで多様性が表せるなら長くていいと思います。言葉の”効率性”のために、人類の半数を占める女性を省くことには納得がいきません。解決策はいろいろあります。すぐに是か否か決めずに議論し、やり方を見つけていけばいいのです。そうすれば認識が広がる、特に男性には大切なことです。

● Cité internationale de la langue française – Château de Villers-Cotterêts
国際フランス語センター(ヴィレール・コトレ城):
1 pl. Aristide Briand
02600 Villers-Cotterêts
Tél:03.6492.4343
www.cite-langue-francaise.fr
月休、火〜日10h-18h30。入館:9€/18歳未満と18-25歳仏在住者は無料。チケットは一回入場のみ。
パリからの行き方:
パリ北駅からTERのLaon行きに乗りVillers-Cotterêts駅下車(45分)。仏語センターは駅から徒歩10分(駅前からAかDのバスで3分)。26歳以上でも往復切符+バス+センター入場料で18€のお得なセットあり。26歳未満は同セットが9€に。www.ter.sncf.com/hauts-de-france/products/form
● Office de tourisme de Retz-en-Valois (Villers-Cotterêts)
仏語センター正面入口向かい
日休、月〜土 9h30-13h/14h-17h30
www.tourisme-villers-cotterets.fr

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ヴィレール・コトレのレストラン情報は ☞ https://ovninavi.com/restaurant_villers-cotterets/
● Musée Alexandre Dumas
鉄道ヴィレール・コトレ駅から徒歩3分、アレクサンドル・デュマ通りにデュマの生家があるが個人宅で見学不可。町の中心にはデュマ博物館がある。
24 rue Demoustier
14h-17h。日曜は14-18h。
火曜と祭日と毎月最終日曜休館。 3.9/3.20€
(仏語センターの入場券提示すれば割引)/18際未満無料。

【正解】
マルセル・デュシャン作「LHOOQ」声に出して読むとどういう意味?
エラショオキュ(Elle a chaud au cul : 彼女は色情狂)
※大きい声で言わないようご注意!
