
『SUPER HAPPY FOREVER』
共同脚本家・久保寺晃一さんインタビュー
閑散とした海辺のリゾート地で、失くした赤い帽子を探す男性とその友人。探しているのは帽子だけ、だろうか。第二部では帽子の持ち主だった女性が登場。時間軸は5年ほど遡り、同じ土地でも活気がある。時の刹那に漂いながらも、永遠を願うようなドラマが『SUPER HAPPY FOREVER』だ。
ヴェネチア国際映画祭 Giornate Degli Autori部門(旧ヴェニス・デイズ)での上映を皮切りに、国内外の映画祭を巡り数々の映画賞を獲得。そんな俊英・五十嵐耕平監督(『泳ぎすぎた夜』)の話題作が、フランスでいよいよ劇場公開に。先日、ドイツのフランクフルトで開催された映画祭ニッポン・コネクション(2025年5月27日~6月1日)でも上映されたばかり。現地では共同脚本家の久保寺晃一さんが来場した。不思議な魅力に溢れる本作について話を伺った。(聞き手 : 林瑞絵)

――ニッポン・コネクションでの反応はいかがでしたか
『SUPER HAPPY FOREVER』は2度のスクリーニングがありましたが、ほとんどの観客がエンドロールが終わるまで客席を立つことなく鑑賞していました。それがとにかく嬉しかったし、作品に満足していただけた証拠なのかなと感じています。脚本家が単独で映画祭のQ&Aに立つ機会は稀なようで、脚本執筆作業のプロセスに関する質問などで非常に盛り上がったのを覚えています。日本に関心の高い観客が多かったこともあってか、劇中に出てくるロケ地の情報に関する質問もありました。どうやらその方は今度日本に旅行に行くとのことで、「ぜひロケーションを巡ってみたい」とお話しされていたのが嬉しかったですね。つまりそれは映画に出てくる場所や人物を気に入っていただけたということだと思うので。
また、一般客のみならず、映画祭のボランティアスタッフの方々にも映画を観てもらえたのが嬉しかったです。彼らの働きは本当に素晴らしかったし、お世話になったので。私のアテンドをしてくれた一人は高校を出たばかりのボランティアスタッフでした。彼女は普段、本作のようなゆったりとした流れの作品に触れる機会がなかったようですが、映画をとても気に入ってくれたようで、それが一番嬉しく、安心したかもしれません。

――今回は五十嵐耕平監督との共同脚本です。脚本の執筆で大切にしたことや、仕事の分担について教えていただけますか。
共同脚本を務めた監督の五十嵐さんと初めて会ったのは、かれこれ17年ほど前になります。彼は私の大学、大学院時代を通じての先輩にあたる方でした。彼の長編デビュー作『夜来風雨の声』を初めて観た時の感動は今でも忘れられません。そのような経緯があったので、彼の作品のスタイルや魅力を考える時間は多分にありました。共通の知人や友人も多かったこともあって、様々な記憶を共有していたのは、この映画を書き進めるにあたって非常に役に立ったと思います。様々な記憶や印象が入り混じったポートレートのような物語だと思うので。

五十嵐さんは非常に聡明で、物語の構造を俯瞰して考える能力に長けていると感じます。ですから、物語の大きな構造、時間の流れに関してはほとんどをお任せし、私はひたすら物語のディティールやアイデアを投げ続けていったと記憶しています。
もちろん優れた細部が大きな構造の変化を要請することも多分にありました。基本的には執筆の時間よりも、ディスカッションを交わした時間の方が多かったです。納得のいく形が見えるまで、何度となく対話を繰り返しました。私としては、脚本を「書いた」という感触よりも、まるで複数の手で粘土を捏ねて、「もう既に会ったことのある、でもまだあまり知らない人たち」の彫像を作りあげたという感覚が強いです。結果、私がシナリオに参加してから完成まで、約2年近くの時間を要しました。
――久保寺さんが考える『SUPER HAPPY FOREVER』の一番の魅力と、最も好きなシーンを教えてください。
魅力としては、俳優たちの芝居の素晴らしさが挙げられるでしょう。メインキャストの佐野弘樹さんと宮田佳典さんに関しては、本企画の企画者ということもあり、本作がクランクインした際には、まるでボクサーが試合にあわせて限界まで身体を絞ってやってきたような、研ぎ澄まされた印象を受けました。凪(なぎ)役の山本奈衣瑠さんの天真爛漫な身のこなしは、この映画に喜びを与えてくれたと感じます。ホテル従業員役のホアン・ヌ・クインさんに関しては、映画初出演とは信じがたいほどの存在感があります。ロケーションを含め一様に素晴らしいので、注目していただきたいです。

好きなシーンは色々あるのですが、ひとつ挙げるとすれば、映画前半部の海の家で交わされる一連の会話のシーンでしょうか。理由として、もちろん映画を観ていても印象的かつ重要なシーンであることに違いはないのですが、シナリオを書いていた際にも、あのシーンの会話を書けたことで、一気にキャラクターや物語に対する理解が深まった印象があったからです。なぜ彼らはこのような旅をしているのか、なぜ佐野という人物が5年前に失くした帽子を探し続けるのか、すごく腑に落ちた理解ができたといいますか…。とにかく物語の核心に触れた気がして、そこから物語が一気に動き出した感覚がありました。
――フランスではナント三大陸映画祭の銀の気球賞受賞を経て、ようやく劇場公開です。映画の国フランスで公開されるのは、どんなお気持ちですか。
実は、私の脚本家としてのキャリアは、諏訪敦彦監督作『ライオンは今夜死ぬ』に脚本協力として参加したことから始まりました。主演をジャン=ピエール・レオーが務め、オールフランスロケという本作に携わった経験は、何ものにも代えることができません。そして、『SUPER HAPPY FOREVER』にも、共同プロデューサーであるダミアン・マニヴェル、マルタン・ベルティエを始め、多くのフランス人スタッフとのコラボレーションのもと完成しました。そういった経緯もあり、フランスには勝手ながら特別な縁を感じています。いつかゆっくり滞在してみたいです。ナント三大陸映画祭でこの映画を上映できたのも光栄なのに、賞までいただけたのは、幸運という言葉以外ありません。映画の魅力が伝わったということだと思いますし、非常に嬉しいです。劇場公開は本当に嬉しく光栄なことです。フランスの観客に気に入っていただけたらこれ以上の幸せはありません。
★ 作品上映館、時間などはこちらのサイトから。
www.allocine.fr/film/fichefilm_gen_cfilm=1000007841.html
フランスでは2025年7月16日から公開。

