1985年にアングレームBD(コミックス)フェスティバルでグランプリを受賞したジャック・タルディは、レオ・マレが書いた、私立探偵ネストール・ビュルマが活躍する傑作探偵小説をBD化している。これはその3作目で、舞台はパリの12区。
1957年5月、当時はナシオン広場で開催されていた移動遊園地(Foire du Trône)で、ビュルマが、ダークブラウンのヘアー、厚い唇がセクシーな女に心ひかれ、ジェットコースターで彼女の後ろに座ったことから事件が始まる。ビュルマは目も小さく眉も薄く、マーロウのように女にはもてないが、ねばり強く、警察や金持ち嫌い、控えめだが庶民へのあたたかい視線…。吹き出しの中の文は長めだが(俗語が多くときどき辞書が必要)、タルディのあたたかい線で描かれた絵を見ながら読むことにしよう。
今では見かけなくなったパリ庶民のさまざまな顔があり、ベルシーにあったワインの問屋街など50年代の街角の風景があり、通りにはプジョー203やシトロエンHバンが走り、ビュルマの探偵ぶりを追いながら、ひと昔前のパリを散策できる。(真)