秋:(笑)難しい質問ですね。うーん…これを食べたらお客さんが喜んでくれるなあという、そういうワクワクした感じです。本当に、これで驚いてくれたらいいなあ、という感じ。
Q:好きに喋ってください。私が後で何か見つけます。
秋:うーむ、料理とは、何でしょうね?料理とは…食べることは生きていくために必要なので、本当は何でもいいんですよね。ただ僕の料理のためにお金を払ってきてくれる人がいる、そしてその料理を作っている自分がいる、という、その喜びを分かち合うことができるということですか。マクドナルドでもいいのに、うちの店の料理とワインに何十ユーロを払いにきてくれる人がいる。そういう方達を最終的には喜ばせたいな、と。
うちはジビエをよく使うんですが、ジビエは究極、というか生きる、生命ということをすごく感じさせてくれます。つまりゼロ、というかそれこそ命が絶えてからうちの店に来てお客さんの胃袋に入るまで、すべて僕がさばくというか管理をしなければならない。
Q:ジビエというのは例えば?
秋:鹿などを一頭。
Q:丸ごとをこのお店でさばく?
秋:そうです。さばいてから、熟成させる時間、調理法や味付けまですべて自分が管理するということに対しての喜びは料理の中にあると思います。でも、それを言葉にするのはやっぱり難しいですね。僕にはあまりこだわりがないし。
Q:いえいえそんなこと。そういえば日本酒のイベントに参加されるとか?
秋:ええ、指定された日本酒に合う一皿を作ります。それからたまたまですが、Salon du sakéにも料理を作りにいくことになっているので、この秋は日本酒のイベントのために料理を考えることになりました。
Q:日本酒とフレンチは合うと思いますか?
秋:僕は、基本的に好きなものを食べて好きなものを飲むと、なんでも合うと思っています。例えば白ワインが苦手な人が、生の魚だからと白ワインを勧められても口には合わない。日本酒が好きな方ならば、日本酒とフレンチを美味しく食べられると思います。日本酒にも色々ありますから、料理に合う日本酒を選んで勧めてあげればいいですね。合うとは思いますけれども、僕個人は日本酒とフレンチを一緒に飲み食いはしないです。
Q:私は芋焼酎が大好きなんですけれど、芋とフレンチは
秋:ダメですよね。僕も絶対しないです。
Q:これも一種のこだわりですかね(笑)。
秋:多分僕が、日本人だからフレンチと日本酒を合わせないだけで、日本酒の国から来ていない人というのは日本酒の中に色々な可能性を見出すのかもしれないです。
Q:確かにフランス人シェフで日本酒を使う、贔屓にしている方はいますよね。さて、本当に最後の質問にしますけれども、ご自身が日本人だと意識することはありますか?
秋:(笑)あります、ありますね。すごくありますけれど、ない、と言うとまた困りますよね。
Q:じゃあ言い方を変えます。ご自身のお料理の中に何かしら日本が出ていると思いますか?
秋:出ているんじゃないですか。僕はさっきも言ったように混ぜるのが嫌いなので、なるべくフランス料理を作ろうと心がけています。でも、一切日本の食材も使わずフランス料理の技術で作ったお皿を食べたフランス人のお客さんから「和、ジャポネな感じが少しするね」と言われる時、ああ自分はやっぱり日本人なんだな、と思いますね。
Q:和のものを一切使わなくても?
秋:一切使わず和のテクニックも使わずに作った皿なのに。食べた後に「日本っぽいね」と言われると、「あーやっぱり僕はフランス人と同じ料理は作れないな」と痛感します。
Q:でも、お店に初めて来て、厨房が見えない側に座ってお料理を食べる人は、普通に美味しいな、とシェフが日本人だなんて想像しないかもしれない。ただガラス越しに厨房で信行さんが仕事をしている姿を見てしまうと「あっ!」という別な観念が植え付けられるのではないでしょうか?
(飛び入りで)信行さんの妻、朗子(さえこ)さん
朗:それはそうですね。「ご主人はフランス人でしょう」という感じで普通に私に話しかけてくださるお客様もいます。もちろん日本人がシェフだということを知って来てくださる方もいます。
Q:先ほどいただいたお料理、とても美味しかったです、ごちそうさまでした。もちろん作っていらっしゃるのは日本人だと知っていましたけれども、どこにも和というか日本という感じがしないな、とは私も思いました。
秋:もしかするとイメージだけかもしれないですけれど、言われるとやっぱり「そうかあ」と痛感しますね。
Q:痛感することは悪いことじゃないですけれども、顔をすげ替えることはできないし。まあ自分は自分だってことですよね。
秋:それはそうです。
Q:今後の計画は?
秋:やりたいことがきちんと常にできるぐらい経営的にうまくいくことですか。別にもう一軒出したいとかそういう気持ちはないですし、常にやりたいことがやれるぐらいの状況であればいいな、と。
Q:心にゆとりと余裕ということですか?
秋:店が続いているということを大前提にして。
Q:その中で自分がどれだけ好きなことができるか、と。
秋:そうです。あとは好きなアルザスに老後は行けたらいいな、という感じです。(笑)
Q:また寄らせていただきます。今日はありがとうございました。
Automne
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