秋:まあ、さっきも言ったように地方を見たかったので。泊まるところがなくてパリの友達のところへ転がり込んだら、金山さんとオーナーにも出会えるという幸運がありましたけれども。
Q:いきなり海を見たくなった、とか?
秋:いや、やっぱり地方へ行きたい、と仕事を探してその中から引っかかったのがサントロペだったということです。
Q:それは夏でしたか?
秋:そうです。
Q:人出がすごかったでしょう?
秋:そうですね。馬車馬のように働いていましたね。本当に忙しい店だったので。そこは2シーズンいましたけれど、2シーズン目には三つ星を獲っていました。
Q:セレブがくるような?と言っても厨房にいると何も見えないですよね。
秋:ええ、話しか回ってこないですね。
Q:でもサントロペならばお魚とか良かったでしょう?
秋:それが、意外にそれほどでもなかったです。
Q:パリの方がいいとか?
秋:いやあ、地中海の魚でいいものはありますけれども、思っていたほど良くはなかった。もっと、すごい新鮮な、日本のようなものが使えるのかな、という期待があったので、海のそばだし。
Q:それってどうしてでしょうね?
秋:なぜですかね?
Q:例えばマルセイユの旧港に上がってくるお魚は、結構ピチピチしているんですよね。でもそれをブイヤベースで煮込んでしまう(笑)。
秋:魚はもちろん新鮮ですけれど、僕自身がすごい妄想を抱いていたのでしょうね。日本と変わらない、すごく新鮮なものを使えるだろう、というような。
Q:でもサントロペが初めての南仏ですよね?南仏料理はどうでしたか?まあ三つ星レストランだと、どれだけ南仏色を出しているかはわかりませんが。
秋:夏しか開いていない店だったので、食材に関しては南のものばかりちゃんと使っていましたし、ブイヤベースも、とはいえマルセイユで出すようなブイヤベースではなくてもっと凝った感じの、地方料理も出していました。あとは休日にニース、マルセイユへ行ってご飯を食べながら。
Q:まあ、そういう意味では地方と料理に触れるのはいいですよね。サントロペのお店が夏シーズンのみ、ということは他のシーズンはまた別のお店へ行ったんですか?
秋:Courchevelクーシュヴェルに行っていました。
Q:冬はスキー!
秋:はい。季節ごとに店を移る子たちは、冬は雪山、夏は海、という風に動いていました。
Q:そういう人はたくさんいますか?
秋:いますよ。
Q:ごめんなさい、愚問かもしれませんが、すると春と秋には何をしているんですか?
秋:初夏から秋ぐらいまででワンシーズン。そして冬の雪山は11月半ばぐらいから始まるので、その間にみんなバカンスを取る、ということでしょうね。ただ、僕が働いていたところに限った話ですけれども、クーシュヴェルは4月まで、サントロペは4月から、すると休みがない。だから夏と冬の間にみんなバカンスを取っているんじゃないですかね。僕はサントロペを2シーズン、クーシュヴェルでは1シーズン働きました。
Q:どうでしたか?山と海、全く違う環境の中で仕事をされて?
秋:全く違いました。クーシュヴェルでは夜中の仕事終わりに、真っ暗なゲレンデを歩いて帰りました。スキーができる人は板を持って出勤して、滑って帰宅していましたが、僕はスキーが全くできない。ですからダンボールをお尻で滑りながら下まで(笑)。
Q:私がいつも皆さんのお話を聞きながら羨ましく思うのは、手に職を持っていらっしゃるとどこでもいつでも仕事ができる、ということです。そういう意味では、自由ですよね?
秋:そうですね、まあ場所を選ばない、というか。レストラン、厨房さえあれば、確かに。ただあとは経験を積めば積むほど、技術や知識を得れば得るほど、同じぐらいのスピードでプライドも高くなって、場所はあるけれど選択肢が少なくなっていくんじゃないですかね。だから皆さんがおっしゃるように「包丁一本でどこでも」とは言うけれど、働きたくない店もあるから、選択肢も狭まってくるんじゃないですか、やっぱり。
Q:すると独立を考える?
Automne
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