極右グループ4人の若者の公判が6月19日にパリ重罪院で始まった。極右テロ計画事件では初の重罪院での裁判になる。裁判の行方とともに、メディアでは極右の脅威の高まりも指摘されている。
この裁判はテロを計画したとして2018年に逮捕された17~23歳のネオナチ系若者4人が被告で、極右テロ(未遂)事件としては初めて、軽罪裁判所でなく重罪院で裁かれる。
当時14歳だった少年は児童裁判所ですでに禁固2年の有罪判決を受けている。この5人はインターネットを通じ、殺人、テロ、社会の破壊といった暴力的手段を用いて人種間闘争を志向する極右「加速主義(accélérationnisme)」に影響されていたと考えられ、ムスリムが欧州を支配するという「大置換(grand remplacement)」説に染まり、テロ計画を練っていたとされる。
中心人物である元憲兵の男性(当時22)は2015年のパリ同時テロの報復のために「イスラム国(IS)やアルカイダのようなテロをしたかった」と供述していたという。アパートにはライフル銃など複数の銃器や爆弾を作るための原料や容器が見つかった。
電子版ル・モンド紙は6月19日、仏情報局と司法当局のデータをもとに極右の脅威の高まりに警鐘を鳴らしている。極右のテロ計画はイスラム過激派のテロ計画に比べると数は少ないが、近年は増加傾向にあるという。
2017年以降に国内で未然に防がれたテロ計画はイスラム過激派によるものが41件に対して極右は9件。極右には、白人アイデンティティ主義、陰謀論、ネオナチ、ネオファシスト、加速主義などがあるが、とくに2015年以降の中東難民の増加やコロナ危機により陰謀論や加速主義の進展が目立つという。
極右活動家は推定3000人で、うち1400人が国家の安全保障上の脅威とされる「Sファイル」にリストアップされている。さらに、6月にユーロポールが公表した欧州のテロについての報告書によると、2010~22年の極右テロ実行・未遂・計画32件のうち29件は2015年以降のもの。とくにフランスは極右テロ関係の逮捕数が19年の7件に対し、21年29件、22年16件と増加。
5月には難民収容センターの移転を巡って、極右活動家に車と家に放火されて町長が辞任した事件があったし、シリア人難民が刃物で子どもを刺した事件のあったアヌシー市長も極右の脅迫を受けた。SNS上に蔓延するファシストワールドの背景には、極右の暴力行為を促すような、見えにくい社会変化の進行が関係しているのだろうか?(し)