最初の全国行動から4週目を迎えた「黄色いベスト(gilets jaunes)」運動は、政権を揺るがしている。自発的な道路封鎖やデモを通して、人々は税に限らず様々な生活難を訴え、要求はたちまち多岐に発展した。燃料増税をきっかけに、これまで蓄積された不満が堰を切って放出したのだ。全国のロータリーやデモで叫ばれる共通のスローガンは「マクロン、辞任!」。抗議と怒りの矛先は大統領自身に向けられた。
この運動は都市周辺や農村部の、ふだん物を言わない人々が自主オーガナイズで行動する点が前代未聞だ。多様な職種、年齢層、意見の男女が参加し、代弁者を特定できないが、中産の下〜低所得層の実生活に根ざした共通の要求は何より、社会的不公平の是正だ。環境政策が名目の増税を、車なしには生活できない庶民に課す一方、航空機燃料、大企業や銀行には増税しない不公平。燃料税の一部(2019年度は19%)が政策にあてられると知って政府の欺瞞に怒った人々は、マクロンが撤廃した連帯富裕税の復活を要求した。また、電気・ガスを公共部門に戻す、郵便局や産院、学校など農村部から消える公共サービスの充実、正規雇用の増加など、社会福祉政策の強化を主張。一般民衆の声を政治に反映させよ、という直接民主制の要求も重要な点だ。極右ポピュリズムとの比較が頻繁になされるが、それよりむしろLFI(服従しないフランス)の政策綱領「共通の未来」との共通点が目立つ。マクロンが体現する富裕層エリートの特権と、庶民に対する侮蔑への民衆の反抗という面で、この運動に革命的な要素を見ることもできる。
12月1日のデモの後、凱旋門付近での攻防戦、火災や破壊の映像ばかりがメディアで発信され(大多数の参加者は平和的に行動した)、政府も「壊し屋」などの暴力を強調した。しかし、運動への国民の支持や理解が依然として7割以上あるのを見て、「政策は変えない」と固執していた政府は12月8日の第4行動を前に、軽油・ガソリン税と電気・ガス代値上げの延期を発表した。「黄色いベスト」は不十分だと第4行動をよびかけ、政府は治安をさらに強化(全国で動員8万9千人、逮捕者2千人近く)。13万6千人(内務省発表)以上が参加した行動の周辺で、パリや地方都市の商店などが被害を受け、経済への影響も増大した。
マクロン大統領は10日の夜ようやく沈黙を破り、最低賃金受給者への援助金100€を与えるなどの措置を告げた。不透明で抜本的な政治の転換ではないと「黄色いベスト」は批判的で、運動は続きそうだ。(飛)