欧州連合(EU)の全加盟国が導入しているサマータイム制度の廃止が、現実味を帯びてきた。EUが今夏、インターネットでEU市民を対象に意見を公募したところ、460万人が回答し、EU全体、フランスともに84%が廃止を希望した。この結果を受け、EU委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は8月31日、ドイツのTVに出演し、「サマータイム制度は廃止されるだろう」と発言した。
9月1日のル・パリジャン紙は「夏・冬時間の切り替え、まもなく廃止」という見出しで、5億1千万人の日常生活に影響を与えるこの問題を伝えた。だが実際に廃止されるまでには、少なくとも数年かかりそうだ。まずEU委員会が欧州議会に廃止法案を提案するとともに、加盟国に提案。EU議会が法案を承認し、かつ加盟国の55%以上、EU市民の65%以上が廃止に賛成すれば、正式に廃止することになる。また、この制度廃止後の時間を今の夏時間とするのか、冬時間とするのかも、議論する必要がある。
サマータイム制度は、ドイツ、イギリス、アイルランド、フランスが1916年に導入。フランスは45年に一度打ち切ったが、石油危機により省エネへの関心が高まった75年に再び導入。98年からはEUの全加盟国が、3月の最終日曜日に時計を1時間進め、10月の最終日曜日に1時間遅くしている。
しかし近年、様々な弊害が指摘されている。多くの専門家が、時間の変化に適応することによる健康への負担を認めている。睡眠不足が精神面にも影響を及ぼしたり、心臓マヒなど循環器系のリスクを高める可能性があるという。時間変更後の月曜日は、集中力の低下により労働災害が増加するという調査結果もある。また、冬時間の初日に、フランス国内の交通事故件数が43%増加しているという報告もある。夕方の帰宅時に、視界が前日より急に悪くなることが原因とみられている。
省エネ効果についても、調査結果は芳しくない。環境・エネルギー管理庁 (ADEME)の発表では、時間の切り替えによりフランスで2009年に年間440ギガワットが節約されたが、これは年間消費量のわずか0.1%にすぎない。
日本ではサマータイム制度の導入が検討されているが、欧州での結末を踏まえ慎重に論議する必要がある。(重)