フランス人に100年以上愛されてきた主人公。
『Bécassine ! / ベカシーヌ!』は、20世紀初頭に生まれたバンドデシネのタイトルで主人公の名前。これをブリュノ・ポダリデスが監督、夏休みに先立つ6月20日にファミリー向け映画として公開される。
映画の幕開きは6歳のベカシーヌが乳歯を抜くシーン。このエピソード一発で筆者は彼女のファンとなる。質素な農家に生まれたひとりっ子のベカシーヌは、神出鬼没の叔父さんに見守られて成長する。一人前になったベカシーヌ(エムリン・バヤール)は風呂敷包みを一つ提げて憧れのパリを目指して徒歩で旅立つ。が、すぐさま車がエンコして立ち往生していた公爵夫人に、養女ルーロットの乳母として雇われ地元に留まることとなる。給料を貯めて汽車でパリに行くためと思っていたが、しだいにルーロットとの絆が密になり、公爵夫人の館での生活が長引く。館には公爵夫人、その愛人、執事、運転手、家政婦、料理人が暮らしている。個性豊かな彼らとの日々を、ベカシーヌは持ち前の素朴な活力、好奇心、ポジティヴ指向で盛り立てる存在となる。
ある日、旅芸人の人形遣いが訪れる。館の庭でのパフォーマンスに、ルーロットはもちろん大人たちも大喜び(夫人の愛人だけが焼きもちもあって憮然としていたが…)。しかし、この人形遣いの男が夫人に気に入られ館に逗留するようになってから、何やら雲行きが怪しくなる…。
登場人物はカリカチュアライズされ、衣裳も装置も色づかいも物語展開もバンドデシネ的なのがいい。地に足をつけたリアリストでありながら夢見る娘ベカシーヌが映画を牽引する。彼女を取り巻く人たちや出来事が時としてポエジーを生む。社会派ドラマやシリアスドラマにうんざりした方にお薦め!ところがブルターニュでは、ベカシーヌ・ボイコット運動が起こっている。ブルターニュ人のベカシーヌが泥臭いキャラとして描かれていて、ブルターニュ人は屈辱を感じるらしい。筆者にとって彼女は愛すべき人物なのだが…。 (吉)