フランスは21世紀になっても「モリエールの言葉=フランス語」を優先したいらしい。ドイツやフランス、ベルギーなどEU先進国にやってくる東欧諸国などからの派遣労働者(Travailleurs détachés)の過半数が建設業界で働いている。アングレーム市のヴァンサン・ユー共和党助役は、昨年春、彼らが公共事業の建設現場でフランス語で意思疎通できないと事故が生じかねないことを理由に「モリエール条項」を市議会に提案し成立させた。以来、6地域圏と5県が同条項を施行、2月9日にはイル・ド・フランス地域圏も施行を決定した。
右派議員の中にはこの条項を労働法に加えるべきだという過激な意見も。その裏には、マリーヌ・ルペンが謳う人種差別的保護政策が見え見えだ。カズヌーヴ首相他、サパン経済相、エルコムリ労働相、労組などは人種差別的条項として強く反対する。左派の中にはこの条項を違法とし、知事に無効にするよう請願する議員もいる。
EU市民が他の加盟国で派遣労働する際の規定「Directive du détachement de travailleurs EU派遣労働指令」は1996年に改定された。契約期間は最高2年、終了後は本国に帰還する。生活水準の低い東欧諸国だけでなくスペインやポルトガルからの労働者を企業が最低賃金で雇うことはソーシャル・ダンピングとして非難されてきた。彼らの医療保険は受け入れ国が保障するが、社会保障は本国が負担するため、受け入れ国の労働者に比べて雇い主にとって安価になる。
今日、派遣労働者はドイツに40万人、フランスに20万人、ベルギーに16万人いると推定される。ポーランドやポルトガルからそれぞれ約4万5千人、スペイン、ルーマニアから約3万人…。
昨年1月、フランスでは建設労働者身分証明書が義務化された。EU加盟国からフランスの建設業界に働きに来る不法労働者を取り締まり、彼らを雇用した者には不法雇用1人につき2千ユーロの罰金が課される。昨年5月、ヴァルス前首相は、仏国内に約29万人いるとされる不法労働者の取締りを強化すると表明した。
モリエール条項をタテに外国人を国内労働市場から排外するルペンの国民戦線党のスローガン「愛国的保護主義」でしかない。仏語を解さない難民にもこの条項が課されるとしたら、フランスの壁はますます高くなる。(君)