2016年2月の封切りから口コミで上映館数を徐々に増やし、最終的に観客50万人を動員して話題となったドキュメンタリー映画「Merci Patron!」が、フランスの最も権威ある映画賞・セザールのドキュメンタリー賞を受賞。2月24日に授賞式が行われた。
フランス北部にある縫製工場で働いていたとある夫婦は、工場がより安価な労働力を求めポーランドに移転したために失業、突如窮地に立たされる。それを見かねた監督本人が、彼らの退職金や新しい勤務先を補償させるために、工場の元締めであるLVMHグループとその代表ベルナール・アルノー(フランス長者番付N°2)を相手にあの手この手を使って奔走し、権利を勝ち取るまでを追った実験的ドキュメントである。
セザール授賞式の2分足らずのスピーチで、フランソワ・リュファン監督フランスの雇用問題の即座の解決を強く訴えた。
以下スピーチ全文:
「私は、深刻な貧困と大きな悲しみを残して、ポーランドに移転する工場についての映画を撮りました。こうしている今も、アミアン(フランス北部)にあるワールプールという洗濯乾燥機メーカーの工場が、同じくポーランドに移転しようとしています。15年前も私はアミアンにいましたが、当時既に洗濯機がスロバキアに渡り、その後コンチネンタル(タイヤ)はルーマニアへ、グッドイヤーもポーランドへと工場を移転するのを目の当たりにしました。今や、家具、化学、繊維、鉄鋼とその他様々の業界で同じことが30年間に渡り繰り返されています。
なぜ30年も現状は変わらないのか。それは被害を被るのは労働者であって、労働者についてはみんな無関心だから。もし芸能界でこのような競争がルーマニア人俳優との間で起こったとしたら直ちに大問題となるだろう。ジャーナリストでも、彼らの特権が危機に晒されたら、直ぐさま討論が行われ、新聞の論壇を賑わすだろう。
あまり競争が起こりえないと言われている議員ではどうだろうか。フランスの議員を雇うのに月に7610€かかる。ポーランド人の議員なら月2000€。もっというならばバングラデシュでは164€。もし明日、議会をワルシャワに移すと言ったら、すぐさま国会で法案が審議されるだろう。しかし、労働者は40年にわたり同様のことを経験しているにも関わらず、いまだに彼らを守る法案はない。つまり『この国には弱者がいるかもしれない、しかし勇気のある指導者はいない。』«Dans ce pays il y a peut-être des sans dents, mais surtout il y a des dirigeants sans cran»
「私の敵は金融だ」と言うオランド大統領は、任期の幕締めに、ワールプールの商品の流通をフランス国内で禁止する要請をするべきだ。いまこそ不甲斐のない大統領というレッテルを挽回するために、動いてくれ!」
映画にも見られる、厳しい現実にこそ皮肉とユーモアを交えて立ち向かう彼の哲学がキレのあるスピーチでも炸裂し、会場では笑いと拍手が起こった。(佐)