パリ北部、庶民的なマルカデ地区に広がる「Le Grand Train」は、レトロな鉄道を眺めながらお酒が飲める期間限定のバー。春から初秋までオープンしており、今年は10月16日が最終日。まだ足を運んでない人は早めに遊びに行くことをお勧めしたい。あまりの心地よさに「なぜ今まで来なかったの?」と、自らの出不精ぶりを後悔するかもしれない。
もとは19世紀半ばにできた鉄道のメンテナンス倉庫。150年以上の歴史を経て、2014年に門戸を閉じた。周辺一帯は2023年の完成を目指し、 住宅や学校、保育所、公園などを持つ新地区の再開発計画が進行中。現在は工事を待つ間、広大な跡地を利用した入場無料のカフェ・バーとなっている。 SNCFも粋な計らいをしてくれるものだ。
ユニークな「Le Grand Train」を一言で表現するのは難しいが、まずはふらっと訪れたいカフェ・レストランとして利用価値が高い。6つのドリンクカウンターがあり、ビール 25clで4ユーロ。お食事処も7ヶ所用意。ピザの「Roberta」、韓国料理の「Jules&Shim」、アルゼンチン料理の「The Asado Club」、グルテンフリーのパティスリー「Helmut Newcake」など個性も国籍も豊か。
またここは25台の貴重な列車や機関車が一堂に会した鉄道博物館とも言えるし、各種イベントやアトリエを用意した多目的スペースの顔も持つ。ヨガやスウェーデン・ジム、マッサージサービス、ライブやDJ、ファッションショー、子供用創作アトリエなどが体験可能だ。
入り口の荷物検査を抜け道なりに進むと、堂々たる風格の列車が並ぶ巨大な倉庫が目に入る。向かいに広がる飴色のレールが伸びた空間では、思い思いにピクニッ クを楽しむ人々の群れが。ビール片手にホロ酔い気分の大人を尻目に、子どもたちはパラソルとレールの合間を飛び跳ねている。奥にはペタンクに似たフィンラ ンド生まれのスポーツ「モルック」に興じるイタリア人グループがいた。その様子を見学していたら、「君も一緒にやる?」と声をかけられた。ここは都会の冷 たいスノッブさとは無縁。年齢や人種の境界線を溶かすフレンドリーな雰囲気が漂っている。
倉庫に足を踏み入れれば、さらに鉄道ファンが喜びそうな光景が。精巧でカラフルな鉄道の模型を集めた部屋は、ゆっくりと時間をかけて鑑賞したいほど。もち ろん本物の鉄道も贅沢に空間を陣取り圧巻。鉄道員の制服や、列車の忘れ物を陳列した不思議なスペースまである。売店には鉄道関連の商品が並び、個性的なお 土産も見つかりそう。
煤けた倉庫跡は建物そのものが歴史を刻み味わい深い。年季の入った看板や調度品の数々が、無造作ながらセンスよく飾られる。SNCFの車両を丸々使った贅 沢な休憩スペースも面白い。窓の向こうではビデオ映像で車窓の風景が流れ、ちょっとキッチュだが旅情も刺激される。耳をすませば東欧を思わす異国の音楽が 耳を撫でる。媚びるような流行りの音でないのも好感度が高い。
さらにあちこちでビリヤード台やベビーフット(テーブルサッカー)が置かれ、映画の上映スペースや鶏小屋まであるから退屈知らずでいられる。週末にはチーズや野菜を売るマルシェも登場。興味や気分に合わせ、楽しみ方は無限に広がるだろう。
昨年は五ヵ月間で20万人の来場者を記録。都市再開発も大事だが、鉄道の魅力に存分に酔いながら美味しいお酒も楽しく飲めるこんな場所は、来年も再来年もずっと存在してくれれば嬉しいものだ。(瑞)
Le Grand Train
Adresse : 26 ter rue Ordener , 75018 Paris , Franceアクセス : Marcadet-Poissonniers
URL : http://www.grandtrain.com/