ニースで7月14日、花火客に大型トラックが突入し、84人が死亡した事件。「イスラム国」(IS)が犯行声明を発表したが、組織と容疑者の直接の関係は見つかっていない。一方で容疑者の心の闇が明らかになり、当局は心理的に弱くなっていた人物がイスラム過激派の呼びかけに感化され、テロ行為に至ったとみている。専門家は、過激化した若者には、こうしたケースが多いと指摘している。
事件翌日の新聞各紙は「ニースで残虐行為」(ル・パリジャン紙)などの見出しで伝えた。モハメド・ラフエジ・ブフレル容疑者(31歳)は、チュニジア出身で2005年からニース在住。父親によると、うつ病を患い治療を受けていた時期がある。宗教に無関心で、アルコールや豚肉を口にしていた。複数の男女と関係を持ち破たんした性生活を送っていた。
妻と3人の子供がいたが、暴力を振るい、別居して離婚調停中だった。数件の軽犯罪を起こし、今年3月も暴行事件で有罪判決を受けていた。インターネットで拷問や斬首、交通事故などの残虐な映像を度々見ていたこともわかった。
だが衝動的に起こした犯行ではない。協力者と数カ月前から連絡を取り、武器を調達し、犯行現場を下見していた。ISと連絡は取っていないが、自宅パソコンからは、ISの旗の画像が見つかったほか、ISの話をしていたという証言もあり影響がないとは断定できない。
政府は、心理的に弱くなっていた人物がISのメッセージに感化されて起こした事件との見方を発表した。
過激化を防ぐ活動をしている人類学者ドゥニア・ブザール氏は、AFP通信に「『精神の統一』(Contention d’esprit)を求めてイスラム過激派に走る若者は多い」と話す。昨年のパリのテロ事件の実行犯アブデスラム兄弟のように、アルコールやドラッグ漬けの生活や、同性愛から抜け出そうと、宗教に救いを求めるケースが多い。それでも欲望を抑えられないと「人を殺して自分も死ぬことで、存在しよう」と考えることがあるという。
テロ行為に走らせる一因として、心理的背景を無視できないことが、今回の事件で表面化した。対処療法の治安対策だけでなく、テロリストを生まない根治治療も見直しが求められている(重)。